Research Abstract |
平成22年度は,米国におけるDV被害者への法的取り組みと専門的支援を実施している職員への教育研修プログラムの実施を明らかにするために,米国弁護士会(ABA)DV委員会委員長(以下,ABA・DV倭員長)へのインタビュー調査を実施し,逐語録を作成・分析した。ABA・DV委員会は,法律の専門家を動員してDV被害者の司法アクセスを増大させることを目的として,1994年に設置された組織である。DV問題に対応する全米の弁護士に研修プログラムを実施して,被害者が適切な支援を受けられるように活動している。ABA・DV委員長は,DV被害者の支援に当たる全ての関係者が,事前にDVに関する専門的研修を受講する必要性を強調した。また,弁護士教育の問題点として,米国の法学部では,DV問題に関する受講が卒業の要件となっておらず,個人法律事務所で働く弁護士の多くはDV被害者への対応能力が低いという問題点を指摘した。特に地方では,社会資源やDV被害者支援プログラムが不足していた。同委員会はこのような問題の解決の改善に向けて,法学部の教授,既卒者,新卒者に,被害者の権利や被害者の発見と支援の方法など,DVに関する基礎的かつ具体的な情報を提供する取組みを継続している。ABA・DV委員長はさらに,身体障害を持つDV被害者の支援に対応できる弁護士の養成や,同性愛者間のDV問題を焦点としたプロジェクトの立ち上げなど,新たな活動に力を注いでいるということであった。 ABAは,米国国会と協力し,政策的弁護業務に加えて立法的弁護業務を行っている。その一環として,DV被害者支援とそれに当たる弁護士の財政的援助に関する法案の通過に向けた作業を実施している。今回のインタビューで,DV被害者支援において重要な役割を果たすことが期待される弁護士の抱える問題点が浮き彫りとなった。これらは,日本と同様に,米国でもDV被害者支援における社会的インフラが不足している現状の一端を表すものといえる。
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