2011 Fiscal Year Annual Research Report
量子搖動の論理‐圏論による記述:時空の起源からの考察
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20520002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中戸川 孝治 北海道大学, 文学研究科, 教授 (20237316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽部 朝男 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90180926)
新井 朝雄 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80134807)
田中 一 北海道大学, -, 名誉教授 (50000716)
長田 博泰 札幌学院大学, 総合研究所, 客員研究員 (70000875)
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Keywords | 圏論の応用 / ゲーデル宇宙と宇宙背景放射 / 元始宇宙 / 古典現象 / モノイダル・カテゴリー / 科学法則の改訂可能性 / 国際研究者交流 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
平成23年度の主要実績は、(1)科学基礎論学会例会におけるワークショップの開催、(2)4年に1回開かれる、第14回、論理学、科学方法論、科学哲学に関する国際会議(フランス、ナンシー)での研究報告がある。 (1)は、宇宙物理の専門家(羽部、細谷暁夫)も参加し、現時点での宇宙観測データを踏まえて宇宙の起源や限界について、どこまでサイエンスとして言えるか、どこに哲学がサイエンスを触発しえる箇所があるかて指摘した。羽部と中戸川は、アインシュタイン宇宙方程式に対してゲーデルが与えた回転宇宙解は、NASAの 2度にわたる人工惑星(COBE, WMAP)からの観測データにより支持できないことを示した。ビックバン後、137億年かけて形成されたこの宇宙の赤道面と北極の回転速度の差から発生するドップラー効果がゲーデル回転宇宙解から導かれる値より優位に小さいからである。これらの結果は、本研究の第3の柱の領域において、セルンのLHCのデータが確定し公表される時期が遅延した状況であげられた貴重な貢献である。 (2)ナンシーでのコンファレンスでは、田中一、中戸川孝治、長田博泰の共同研究により得られた結果が報告された。これは、本研究プロジェクトの第1の柱(物理学の認識論的基礎)における貢献である。すなわち、現在の物理理論(とりわけ量子力学)が究極の物理理論でるあることの否定と、不完全性定理(第1、第2)の間にある種の類似関係が成立することを、古典現象(ニュートン力学およびマックスウェル電磁場理論)を前提にして(メタ言語として使用することにより)示した。夜空の星は古典物理では輝かない、量子力学では輝くことが導けるという田中一の命題を一般化した命題0906とゲーデル文の間に、認識論的位置に関して類似関係が成立することを示した。 上記以外に、ほぼ毎週開催の研究会(元始の会)で各種研究報告・討議が行われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
宇宙の起源や限界のうち、当該年度では、アインシュタイン宇宙方程式のゲーデル回転解の観測データによる否定という結果を得た。ゲーデル解は、ゲーデル自身によれば、変化のないパルメニデスの実在(一者)から与えられる直観にもとづく経験現象界(時間が経過し変化のある領域)のモデルとして提示されたものである。今回の結果は、ゲーデルの認識論および存在観について、人工惑星により得られた観測データとドップラー効果に基づき、ゲーデル実在論とそこから与えられる直観により形成される知識観は、物理学の分野では成立は極めて困難であることをしました。(集合論や数学の分野では別途論じなければならない。)観測データとゲーデル回転解との関係はゲーデル自身が論文の改定する毎に加えられた脚注で気にしていた問題であり、また、ゲーデル論文集に収録されたとき、前書きを書いたホーキングによっても経験データとの齟齬の有無が問題として指摘された。ビッグバン以降137億年の歴史をもつ、われわれの住むこの宇宙の赤道面と北極の間で背景輻射にドップラー効果が(ほぼ)検出されないという指摘(羽部による)は、ゲーデル回転宇宙モデルの発想に導いた大本にある実在観と知識観がサイエンスに肯定的な帰結をもたらさなった実例となるものである。このような結果が得られたことは、物理学、とりわけ、宇宙論と哲学の関係について議論する本研究の第1の柱において、おおむね順調に進展していることを示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第I、第IIの柱については、順調な成果がえられたことは、上述の通りである。羽部と中戸川によるゲーデル回転宇宙解と経験データとの齟齬、およびそれに基づくゲーデルの実在観と知識観への批判については、基礎論学会ワークショップの資料として公開されている。今後は、命題0906とゲーデル不完全性定理についての結果を英語による論文として出版することである。 さらに、第IIIの柱である圏論と非標準論理や物理理論への関係について、最先端で成果を上げている研究者の招聘等により研究情報の交換や刺激をうけ、第IIIの柱についても研究を進展することが今後の課題として残されている。 また、ビッグバンを引き起こしたインフレーション過程、さらに、インフレーション過程はどのようにして引き起こされたのか、について物理学を踏まえての研究を進展することが課題として残されている。
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Research Products
(6 results)