2008 Fiscal Year Annual Research Report
啓蒙と誤謬:『百科全書』の「学芸の全体的・合理的歴史」に見る「誤謬の歴史」の役割
Project/Area Number |
20520076
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 Aoyama Gakuin University, 文学部, 准教授 (10339517)
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Keywords | 思想史 / 十八世紀 / フランス / 啓蒙思想 / 百科全書 / ディドロ / ビュフォン / 誤謬 |
Research Abstract |
今年度は、ディドロが編纂した『百科全書』(1751-1772、本文全17巻、図版11巻)の諸項目における誤謬の歴史に着目し、「誤謬」(<<erreurs>>)をキーワードに、A(第1巻)からZ(第17巻)の項目で記述される誤謬の事例の収集を行った。生理学や化学や天文学などに関する科学的・学問的誤謬、迷信や俗信などの宗教的・民衆的誤謬など様々な誤謬の分析から、『百科全書』の誤謬批判の言説が、総体的に同時代の合理主義的な科学理論や、誤謬の原因をめぐるマルブランシュ、ベイル、フォントネル、コンディヤックらの神学的・哲学的議論をバックボーンとしていることが、短期出張の結果、改めて確認された。さらに、2009年1月刊行の紀要では、『百科全書』の生物学関係の項目の重要な参照文献であり、『百科全書』と並ぶ啓蒙思想の金字塔とされるビュフォン『博物誌』(1749-1789、全36巻)第1巻に見られる誤謬論を分析した。その結果、ビュフォンが列挙する博物学的誤謬が、(1)初学者の速断や先入見による単純な誤謬、(2)事実を無秩序に収集するばかりで知識との照合を疎かにする博識学の誤謬、(3)近代における博物誌の分類法・命名法の抽象化・体系化に伴う方法的誤謬、のほぼ三種に分類できることが分かった。また、ビュフォンが、数理科学と自然学がそれぞれ受け持つ「数学的真理」と「自然学的真理」とを区別し、人間の感覚能力と認識能力の限界のために「相対的真理」にしか到達できない自然科学の宿命を博物誌の誤謬の根本的な原因と見なしながらも、人間の感覚経験で確認された事実と人間にとっての有用性を基準とする方法に基づいて、可能な限り誤謬の原因を排除した合理的・経験的な自然学として博物誌を再構成しようとしたこと、人間の諸能力を基準とするこの学問的方法にこそ、『百科全書』と『博物誌』の同時代的な共通点があることが明らかになった。
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Research Products
(1 results)