2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520143
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Research Institution | Osaka University of Arts |
Principal Investigator |
犬伏 雅一 Osaka University of Arts, 芸術学部, 教授 (70340594)
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Keywords | 芸術諸学 / ピクトリアリズム / 視覚体制 / カメラ / 身体 / モダニズム |
Research Abstract |
ピクトリアリズムを写真史の直線的発展の一階梯とする図式の再検討が本研究の課題である。初年度は課題解明の糸口の発見に注力した。まず、フランス西部レンヌで2005年から2006年にかけて開催された展覧会「ヨーロッパにおけるピクトリアリスム1888-1918」図録の寄稿諸論文ならびその書誌文献を精査してピクトリアリズムのスペインからロシアにまでに及ぶ展開を検討した。その上で文献入手の都合で、仏語圏ならびに独語圏における19世紀末の代表的「写真論」に関わる文献調査を行った。また、すでに蓄積してきたH.P.ロビンソンの写真論の精査を継続し、併せて他の英語圏における「写真論」に関わる文献を調査した。この過程で、アメリカにおけるピクトリアリズム展開においてスティーグリッツと対立したデイ(F.Holland Day)の写真行為が一つのモダニズムの形として独自のピクトリアリズムの方向性を志向していた可能性が見えてきた。従来の平板な視点を多層化する可能性の認知は重要である。デイのピクトリアリズムは、スティーグリッツが放棄したピクトリアリズムとは異なるものである。しかも、デイの写真行為、特に作品の提示における提示のコンテクスト設定には、スティーグリッツがピクトリアリズムとの断絶後も「カメラ・ノート」から「カメラ・ワーク」へと通底する形で採用した作品提示のコンテクスト設定に親近性が認められることも判明してきた。以上のように、デイの写真行為の分析が、写真史の一階梯としてのピクトリアリズムにいくつかの大きな亀裂を入れる可能性を開いたと目下のところ判断できる。なお、作品提示のコンテクスト設定が孕む問題についてはアラン・セクーラが「Thinking Photogarphy」で展開したスティーグリッツの「三等船室」分析の提示とその限界について一部活字化しておいた。
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Research Products
(1 results)