2010 Fiscal Year Annual Research Report
林羅山を中心とした江戸初期儒学者の日本古典文学研究についての考察
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20520171
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
川平 敏文 九州大学, 大学院・人文科学研究院, 准教授 (60336972)
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Keywords | 徒然草 / 注釈 / 受容 / 林羅山 / 国学 |
Research Abstract |
本研究は、江戸初期の儒学者・林羅山の徒然草注釈書『野槌』(元和7年/1621成、刊)を中心として、羅山および当時の儒学者たちの日本古典文学研究の性格・影響などを考察するものである。 (1)林羅山の和学史上における位置付け 従来の仏教的人間観においては、「情」は煩悩として、基本的には否定すべきものであった。しかし羅山は『野槌』において、儒学的人間観に基づいて、「情」を基本的に肯定する姿勢を見せた。これは後の国学者たちの古典注釈姿勢の原型であったことなどを指摘した。 (2)「つれづれ」の解釈を中心とした江戸前期思潮の研究 徒然草冒頭の「つれづれ」という語は、現代ならば「所在ない」「退屈」などと訳すが、江戸前期には、「身心静寂の状態」などという解釈が優勢であった。その背景には、儒・仏・道は本源的に同一とする、いわゆる三教一致論の盛行という思潮の存在があり、三教の共通項である「静」の理念が、「つれづれ」という語の解釈に投影された結果だと指摘した。 (3)徒然草と江戸前期文学との関係 江戸前期の仮名草子や俳文には、辞句や趣向の面で徒然草の影響を受けたと思われる作品が多い。当時の注釈書の〈読み〉を手がかりすれば、その影響は、(1)教訓・述志の側面、(2)情(特に色欲)の肯定、(3)市隠的/艶隠者的なスタンス、(4)文章の典範、という四つの視座から分析ができることを明らかにした。 (4)「『野槌』書名・人名索引稿」の完成 『野槌』は江戸前期、注釈書としてだけではなく、和漢の故事を豊富に記載する「類書」のようなものとしても多く利用されている。本索引の完成により、今後より多くの文学作品において、その利用実態が明らかになっていくだろう。
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Research Products
(5 results)