2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520287
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 浩則 Kobe University, 人文学研究科, 教授 (00219445)
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Keywords | フランス文学 / ポール・ヴァレリー / エクリチュール |
Research Abstract |
ボール・ウァレリーの最晩年の二つの詩集『コロナ』と『コロニラ』をめぐって、パリのフランス国立図書館に二度にわたって資料収集に出向き、ほぼ完全な資料を作成するとともに、その詩集成立の事情を解き明かすヴァレリージャン・ヴォワリエとの間でかわされた数百通におよぶ手紙などの収集にも努力した。また、これらの資料にもとづいて論文「ヴァレリーあるいは『愛の子ども』」を執筆し、日本ヴァレリーセンターの紀要「ヴァレリー研究」第5号に掲載した。これは、この二つの詩集にかんする世界でも最初の論文のひとつであることは間違いない。そして、この論文によって、知性主義のみばかりが強調されがちなヴァレリーの情動面がかなり明らかになったと同時に、そのエクリチュールのもつ複雑な性格にかなり明確な光をあてることができたものと自負している。さらに、これらの詩集は私がパリで収集した資料をもとに邦訳されることが決定している。わたしと精神科医の中井久夫氏との共同訳ならびに詩集解説をつけた本を近々出版予定である(みすす書房より)。これらの訳詩もまた、従来知られているヴァレリー像を一新することに寄与するものと思われる。端的にいえば、知的絶対主義に由来するアカデミックな詩風で描かれた『若きパルク』(1917)や『魅惑』(1922)から、「優しさ」「弱さ」を基軸に据えた詩への転換ということになるだろう。また、これらの詩が書かれたヴァレリーがほぼ同時期に書いていた演劇作品『わがファウスト』にもまた、これらの詩の研究を通して新たな地平を開くことができた。現在、筑摩書房で新しい「ヴァレリー全集」が凖備されているが、わたしはその第6巻で、この『わがファウスト』を改訳するとともに、その未完の作品の草稿資料をもとにした論考も書くことになっている。それは具体的には、「ルスト」第4部常呼ばれている場面の研究が主となるが、こうした研究を通して、晩年のヴァレリーの作家活動全体に統合的な解釈をくわえることが可能になると思われる。
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