2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520287
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松田 浩則 神戸大学, 大学院・人文学研究科, 教授 (00219445)
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Keywords | 仏文学 / ヴァレリー / 詩学 / 官能性 |
Research Abstract |
ポール・ヴァレリーにおける官能性の表現というテーマのもとで研究を推し進めてきたが、今年度は新たな成果を加えることができた。現在、筑摩書房から刊行中の『ヴァレリー集成』第五巻に、ポール・ヴァレリーがのこした『日記』(通称『カイエ』)にみられるデッサンに関する総合的な考察を加えた論考を発表することができた。ヴァレリーにおけるデッサンとは、作家の余技のレベルにとどまらず、文字を書くことのかたわらで、それと呼応するように生まれてくるもので、ヴァレリーのエクリチュールの生成を考えるうえで貴重な研究対象である。この論考では、ヴァレリーが好んで描いたテーマ(自画像、海景、木、ベッド、手、不定形なものなど)を取り上げて、デッサンと文字の生成の関連を明らかにするとともに、そこに確実に流れているエロティシズムのありかたを分析した。こうした研究は少なくとも日本では初めての試みである。さらに、同じ、『ヴァレリー集成』の第六巻を一橋大学名誉教授の恒川邦夫氏と共同編訳(2012年5月に刊行予定)し、そのなかで松田は、特に、ヴァレリーの演劇作品『わがファウスト』の翻訳に関わった。この作品は、松田が2010年に中井久夫氏と共訳した『コロナ・コロニラ』(みすず書房)とともに、ヴァレリーの最晩年の愛人ジャン・ヴォワリエと深い関係のある作品であるが、この翻訳ならびに注解において、科学研究費補助金をもとに数次にわたりパリのフランス国立図書館で資料を収集した成果を存分に生かすことができた。というのも、この未完の作品の残された草稿群の主要なものを、日本で初めて翻訳することができたからである。とりわけ、「ルスト」第四幕に関する資料は、ヴァレリーの官能性を語るうえできわめて貴重な資料なので、学術的にもおおいに意義のある翻訳と自負している。また、松田はこの巻に、あとがきのかたちで論考「『わがファウスト』あるいは双頭の蛇」を発表した。これも、『わがファウスト』の作品構造を解明するうえで興味深いものと考える。こうした成果から、本研究課題で計画した研究はほぼ完全に実現されたことになる。
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