2010 Fiscal Year Annual Research Report
ファシズムとの関連におけるA.ボイムラーとトーマス・マンとの比較
Project/Area Number |
20520312
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Research Institution | National Fisheries University |
Principal Investigator |
中島 邦雄 独立行政法人水産大学校, 水産流通経営学科, 教授 (00416455)
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Keywords | 独文学 / ファシズム / 神話 / 啓蒙主義 / ロマン主義 / 母権制 |
Research Abstract |
神話解釈を通じて、欧米の人間中心主義な合理主義を批判する点で共通の基盤に立ちながら、A.ボイムラーは、ヘーゲル的啓蒙主義からファシズムへと政治的・思想的立場を変え、一方Th.マンは保守主義から民主主義へと逆向きのコースをたどった。両者の思想的展開の交点を示す指標が、バッハオーフェン選集『東洋と西洋の神話』に寄せたボイムラーの序文「ロマン主義の神話学者バッハオーフェン」であり、それに対するマンの批判である。前年度の「序文」中のホメロス解釈に引き続き、ギリシア悲劇解釈を分析することを通じて、ボイムラーの神話観とそれを踏まえたロマン主義概念を調査し、それに対するマンの反応を明らかにすることで、神話とナチズムと民主主義との間の関係にメスを入れることを研究の目的とした。 研究成果として明らかとなったのは、「序文」では古典古代ギリシアの文学史が、全体としては啓蒙主義的な弁証法的発展として構想されているが、各章の結びつきがルーズなために、マンは、特にその1・2章にみられる非合理主義的・ロマン主義的な領域への接近を、一義的な価値を持つ主張と受け取ったことである。しかしこれはマンの誤りというよりも、「序文」自体の文体と論理的展開に問題があり、むしろ誤読はやむを得なかったといえる。序文がこのように論理的破綻ととられかねない構成をとった背景には、「序文」を通じてボイムラーが、本来紹介すべきバッハオーフェンとは関係のない主張を展開しようとした事実がある。つまり、ニーチェの『悲劇の誕生』とは異なる悲劇誕生の仮説を提示したのであるが、そのためには非合理主義的な冥府的領域の強調がどうしても必要だったのである。 なお、マンによる「序文」受容の過程を明らかにする上で、チューリヒのトーマス・マン・アルヒーフを訪れ、「序文」に書き込まれたマンのメモを閲覧したことは、研究進展の上で重要な足がかりとなった。
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Research Products
(2 results)