2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520315
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
西上 勝 山形大学, 人文学部, 教授 (10189277)
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Keywords | 中国文学 |
Research Abstract |
本研究第三年度に相当する平成22年度においては、それまでの画人伝記や絵画ジャンルに関わる知見をふまえ、次の二つの課題の解明を目的としていた。 (1)蘇軾・黄庭堅の手によって確立された散文ジャンルである題跋は、蘇黄以降の書き手にどのように継承されていったか。 (2)題跋によって切り開かれた芸術関連の言説領域はどのような内容を持ち、宋代以降の芸術論にいかなる影響を与えたか。 上記2点の課題に取り組むに当たり、「墨戯」という概念に着目することにした。墨戯という語は本来、「墨を用いた戯れ」を含意するに過ぎなかったが、中国絵画史ではつとに指摘がなされていたように、知識人の手になる特定の筆墨を用いた表現、とりわけ絵画表現の一手法とその手法によって創出された絵画作品を指示する用語である。黄庭堅によって初めて使用されたこの語が、蘇黄以降の題跋の書き手、後世の画家たちによって如何に発展的に継承、使用され続けて、中国知識人独自の表現領域を指し示す語彙となっていったかを、題跋を主とする文学的営為を追跡、検証してみることを試みた。その検証の成果を近世の職業画家・石濤の言説までを視野に収めながら、「墨戯について」(山形大学紀要(人文科学)第17巻第2号掲載)にまとめ公表することができた。この論考をまとめることによって、宋人題跋を源流とする書画論全体を見渡す立脚点を確保すると同時に、近代的芸術観と対峙する伝統的観点の内実を具体的なものとすることができるようになった。
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