2009 Fiscal Year Annual Research Report
国家変容と言語問題のモデル的研究:ハンガリー語のケース
Project/Area Number |
20520326
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡本 真理 Osaka University, 世界言語研究センター, 准教授 (10283839)
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Keywords | ハンガリー / スロバキア / 言語法 / 少数民族言語 / 言語権 |
Research Abstract |
本研究では,ヨーロッパ,とりわけハンガリーにおける近代国民国家の変容と言語政策の関わりのあり方を検証するのが目的であるが,今年度は,ちょうどこの時期に注目を集めることとなった,ハンガリーの隣国スロバキアにおいて可決された新言語法(2009年9月施行)に焦点を当てた。 新言語法の内容と,国内少数民族の言語権への影響,またそれをめぐる国際社会の関与について検証すると同時に,本言語法をEU諸国の他の言語法と比較検討することで,本言語法のもつ性格を明らかにした。その結果,国家形成の歴史的経緯が,言語法の性格に少なからぬ影響を与えるということがわかった。すなわち,被支配民族の歴史を克服して新興国家を形成した民族は,自らの「国語」の保護・育成に重きを置くあまり,国内の少数言語の使用権が十分に保障されない事態がおこりやすいということである。そのような状況は,かつての支配民族が国内で少数民族としての逆転した位置に置かれている場合,またその少数民族が多数派を形成する国家が近くにある場合に,顕著にあらわれる。スロバキアに対するハンガリーだけでなく,バルト諸国に対するロシアなどがその例にあげられる。 ヨーロッパ地域の言語法に関わる普遍的な問題点を明確化することによって,国内の,また国際的な民族摩擦を回避するための方策を意識的に打ち出していくことができる。その一つが,「国語」の擁護・育成と少数言語の権利保障の両者を同等に重視しつつ,そのバランスに対して細心の注意を払い続ける必要性である。また,それに対して国際組織が十分に監視機能を果たすことも求められる。以上のように,ハンガリー人マイノリティーのケースをモデルとして,国家の変容と民族問題の普遍性の一片を解明することができた。
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