2011 Fiscal Year Annual Research Report
狩猟採集社会の定住・移動性と集団の空間的流動性に関する歴史地理学的研究
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20520676
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
遠藤 匡俊 岩手大学, 教育学部, 教授 (20183022)
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Keywords | アイヌ / 狩猟採集社会 / 定住性 / 移動性 / 集団の空間的流動性 / 集落の血縁率 / 地縁 / 三石 |
Research Abstract |
世界の狩猟採集社会のなかでは定住性の高い1864~1869年の東蝦夷地三石場所のアイヌ集落を対象として,定住性の程度と集落の血縁率の関係を分析した。その結果,「集落の存続期間が長くなると血縁率は低くなる」という傾向はとくに認められなかった。また「家の同一集落内滞在期間が長くなると血縁率は低くなる」という傾向もとくに認められなかった。集団の空間的流動性の程度と集落の血縁率の関係を分析した結果,分裂・結合の流動性の程度と集落の血縁率の間にもとくに関係はなかった。これは集団の空間的流動性が,移動する家のみで形成されるのではなく,集落内に定住する家と移動する家の組み合わせで生じており,集団の空間的流動性には血縁共住機能があり集落の血縁率が維持されているためと考えられる。集落の血縁率の変動率(絶対値)は平均24.9%と大きく,その変動は主に集団の空間的流動性に起因していた。多くの場合に集落の血縁率は50%以上に保たれており,血縁率は平均すると73.6%である。この結果は,三石場所のアイヌ集落においては,移動性(あるいは定住性)の程度に関わりなく,集団の空間的流動性によって集落の血縁率は低下しない可能性,つまり国家という枠組みのなかに組み込まれながらも「血縁から地縁へ」という変化は生じない可能性があることを示唆する。 また1822年の有珠山噴火によって多数の人々が死亡したが,死亡者数は必ずしも明らかではなかった。分析の結果,死亡者数は少なくとも和人6名,アイヌ72名の計78名であった。死因は,火砕サージだけではなく火砕流本体も関わっていた。噴火時にアブタ集落に居合わせたのは和人7名,アイヌ73名であり,真の死亡率は和人85.7%,アイヌ98.6%であった。火砕流・火砕サージに遭遇したのは,アブタ集落のアイヌの推定人口338人のうち73人ほどである。アイヌの人々の多くは,秋,冬,春の食糧となるサケ(鮭)を漁獲するために,30Km以上も離れたシリベツ川上流域に季節的移動をしており不在であった。そのために生き残ることができたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
地震・津波の後,引っ越したり,生家の後片付けなど肉体的労働のほか,精神的に落ち着くまでに時間を要した。3月11日から北海道へ出張して史料を閲覧のうえで確認作業を行う予定であったが,地震などのため交通機関が麻痺して実施できなかった。そのため学術雑誌への投稿が遅れることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
移動性が高いことで知られるサン(ブッシュマン)と定住性が高いアイヌを取り上げ,集団の空間的流動性の程度,集落の血縁率,集落の存続期間,家の同一集落内滞在期間などの相互関係について比較考察することが最優先される課題となる。また,1800年代初期の段階では,アブタ集落などの内浦湾周辺地域のアイヌは,主体的・自律的な季節的移動を行っていたことが平成23年度の研究によって判った。そこで,和人の強制力による強制部落が形成されていた,とする従来の説は誤りであった可能性があるので,アイヌの,主体的・自律的な季節的移動について研究を進めたい。
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