2008 Fiscal Year Annual Research Report
多文化主義の理論枠組の再構築:多元化する争点群の体系的分析のために
Project/Area Number |
20530095
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
辻 康夫 Hokkaido University, 大学院・公共政策学連携研究部, 教授 (20197685)
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Keywords | 政治学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、多文化主義政策をめぐる多元的な争点を整理し、これに理論的な見通しをつけることである。研究一年目の2008年度は、第一に、本研究で用いる資料・文献の包括的リストを作成し、その収集につとめた。また、多文化主義の諸理論を検討するとともに、政策領域ごとに、それぞれが対象とするニーズを明らかにする作業を行った。とくに社会・経済的状況に分類されるニーズについては、移民や外国人労働者を中心に、近年、新しい成果が現れており、これらの研究を参照しつつ、福祉国家論やソーシャル・キャピタル論とのつながりを探求した。また、文化的ニーズに関してな、近年、重要性を増している宗教的ニーズについて、これを扱う枠組みについて検討を行った。多文化主義政策をめぐる理論では、リベラリズムの基本的原則の枠内で個人の宗教的ニーズを保障することを基本的方針としつつ、両者の折り合いをつける条件を探求することが多い。しかし近年の政策事例は、こうした手法の有効性への疑念を生起させつつある。フランスにおけるライシテの原理への批判1に見られるように、世俗的な公的制度が宗教的ニーズを受容しうる限度が問われている。同時にこうした世俗性の達成がキリスト教文明の特異性に由来することがしばしば指摘される。こうした状況を3念頭におけば、宗教的ニーズは政教分離というリベラルの原則と衝突しうるのであり、しかもこれらを一律に切り捨てることは困難であると考えられる。むしろ世俗性のキリスト教的前提が明らかにされる必要があり、とくに近代以降キリスト教と、リベラリズムとの内在的な関係が解明される必要があると考えるに至った。
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Research Products
(2 results)