2009 Fiscal Year Annual Research Report
多文化主義の理論枠組の再構築:多元化する争点群の体系的分析のために
Project/Area Number |
20530095
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
辻 康夫 Hokkaido University, 大学院・公共政策学連携研究部, 教授 (20197685)
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Keywords | 政治学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、多文化主義政策をめぐる多元的な争点を整理し、これに理論的な見通しをつけることである。研究2年目の2009年度は、昨年度に引き続き、本研究で用いる資料・文献の収集を行うとともに、多文化主義の議論が問題にするニーズとその包摂の手法をを明らかにする作業を行った。特に次の二点について力を入れた。第一に、昨年度から考察している宗教的ニーズをめぐる議論については、チャールズ・テイラーの近年の議論を手がかりに、西洋文明の世俗性の意義と、それに基づく宗教的寛容の原理について考察を行った。テイラーの議論によれば、近代西洋の世俗性は、思想的なレベルにおいては、かならずしも宗教性を克服したとは言い難しい。この点を考えれば、世俗的な世界観の自足性を前提とすることはできず、少数派の宗教的ニーズへの配慮の重要性が認識されるべきである。これらの点については小論を公刊した。第二に、近年の多文化主義をめぐる論争め変化を検討しつつ、これを少数派のニーズの包摂の手法としての多文化主義政策の困難・課題を検討した。とくに文化理解における本質主義への批判、マイノリティの内部での人権の確保の要請、世界情勢の緊張が国内のマイノリティ政策に及ぼす影響などを検討し、多文化主義の有効性とその限界について考察した。これを通して、従来の文化の概念や、文化的ニーズを中心とした多文化主義理解の再検討が必要であること、特に、今日の批判に応えて多文化主義政策を再構築するためには、文化的なニーズの観念を再定義するとともに、マイノリティの政治的なニーズを理論に組み込む必要があることを認識に至った。
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Research Products
(1 results)