2010 Fiscal Year Annual Research Report
多文化主義の理論枠組の再構築:多元化する争点群の体系的分析のために
Project/Area Number |
20530095
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
辻 康夫 北海道大学, 大学院・公共政策学連携研究部, 教授 (20197685)
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Keywords | 政治学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、多文化主義政策をめぐる多元的な争点を整理し、これに理論的な見通しをつけることである。研究最終年度にあたる2010年度は、昨年度に引き続き、多文化主義の議論が問題にするニーズとその包摂の手法を明らかにしつつ、これを基礎づける多文化主義の理論の検討を行った。これによって得られた主な知見は以下の通りである。歴史的にみれば、1990年頃を境にして、文化的な差異の主張やこれに基づくマイノリティの自律の主張が一段と深化する。新来の移民集団においては、文化・宗教上の差異が増大する。地域的マイノリティや先住民においても文化的独自性や政治的自律の主張が強まる。他方で、脱工業化やルオリベラルな経済レジームの強まりの中で、マイノリティの経済的排除の回避、共通の社会への統合が喫緊の課題となるとともに、文化を超えた基本的人権の普遍的保障の課題も重要性を増す。こうして多文化主義政策の是非は主要な政策分野をまたいで対立を生みだしている。第二に、これらの問題に対処するために対話・熟議の重視が強まっている。共存の枠組をアプリオリに決めるのではなく、当事者間の妥協や、文化変容の可能性を重視することで、文化の独自性と統合の要請に折り合いをつけようとする傾向が強まっている。第三に、政治理論の領域でもこれに対応した変化が必要と考えられる。満たされるべき基本的ニーズを社会的基本材として確定したうえで、その公平な分配の結果を提示するロールズやキムリッカ型のモデルには限界が存在する。すなわち対話や熟議を通じた妥協や文化変容を前提とするならば、対話が到達すべき結果よりも、公平な条件での対話・熟議の実現がより重視されねばならず、とくに政治的プロセスや市民社会における権力関係とその是正策が議論の中心に据えられる必要がある。
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Research Products
(4 results)