2010 Fiscal Year Annual Research Report
欧州通貨統合の歴史的起源とフランスの通貨戦略(1968-79年)
Project/Area Number |
20530315
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Research Institution | Yokohama College of Commerce |
Principal Investigator |
権上 康男 横浜商科大学, 商学部, 教授 (30018006)
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Keywords | 欧州通貨統合 / 欧州経済統合 / 通貨統合 / フランス経済史 / フランス経済 / 新自由主義 / 石油危機 / 変動相場制 |
Research Abstract |
欧州諸国の通貨統合への取組みは、1970年代半ばに通貨協力制度「スネイク」が頓挫したのち、1979年にEMS(欧州通貨制度)が創設され、再発進した。単一通貨ユーロを準備することになるのはこの制度である。本年度はこのEMSの成立過程とその機能の実態を明らかにすることに研究の重点をおいた。具体的には、フランスでの史料調査と財務省の元高官たちからの聞取りにもとづいて研究を進めた。 EMSの構想から立上げにいたるまで、すべての段階で決定的な役割を果たしたのは欧州共同体の基軸国であるフランスの大統領ジスカールデスタンとドイツの首相シュミットである。2人の狙いは欧州に「安定通貨圏」を創り、変動相場制度のもとで混乱状態にある国際経済・通貨制度を安定させることにあった。また、その原案を用意したのはジスカールデスタンであった。一方、EMSの創設で仏独が連携できたのは、フランスがドイツと同様の新自由主義的経済政策をとるようになり、両国間に共通の基盤が成立したことに多くを負っている。 しかし、EMSは当初構想とは違い、第一段階(為替機構の創設)は実現したものの、その完成を意味する第二段階(欧州通貨基金の創設)への移行は見送られた。第二次石油危機による経済的・政治的混乱もあるが、最大の問題は欧州諸国の経済政策の収斂が十分に進んでいなかったことと、アメリカがドルの安定に本腰を入れて取り組もうとしなかったからである。単一通貨に向けて発進するには欧州内部におけるもう一段階進んだ努力が必要であり、それには1980年代半ば以降を待たねばならなかった。 EMSを扱った研究は多いが、フランスの側から、しかも大統領府文書を含む第一次史料にもとづいた研究は、本研究が世界で最初である。
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