2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20530435
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
橋爪 大三郎 東京工業大学, 大学院・社会理工学研究科, 教授 (10218399)
|
Keywords | 本居宣長 / ネイション / プレ近代 / 国学 / 言語ゲーム |
Research Abstract |
本研究の最終年度である平成22年度は、本居宣長の『古事記伝』の研究方法についてさらに考察を進め、以下の成果を収めた。 宣長の読解の方法的根拠を与えたのは、伊藤仁斎の古義学、荻生徂徠の古文辞学であった。この方法は、朱子学の恣意的な意味解釈を批判し、原点の意味の同定を連立方程式に相当する同時決定の論理により実証しようとする点にあった。今回、これらを文献的にあとづけることができ、『古事記伝』がこれらを踏まえたどのような実証の方法論を構築しているか、特定することができた。この作業を通じて、日本の政治的正統性を遡及的に復元する射程をもった、国学の実証性が広く信憑されるに至った経緯が明らかになった。宣長が実証したのは、新儒学(たとえば、崎門学)が想定した儒教的な政治的正統性ではなく、それに先行する無文字社会日本の政治的正統性であった。このことから、いわゆる 「道」論争の意義も明らかになった。無文字社会から律令国家体制が連続的に編成される 「解析接続」、そして「律令制」から武家政権が派生しまた「王政復古」へ回帰する 「解析接続」のキータームが、万世一系である。この脱儒学的なロジックを可能にしたのが、宣長が実証した原日本の「感性共同体」であることが、この研究が明らかにした最も重要な結論である。
|