2009 Fiscal Year Annual Research Report
ソーシャルワーカーの「主体性」に関する実証的研究~「実践の科学化」を目指して
Project/Area Number |
20530508
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
衣笠 一茂 Oita University, 教育福祉科学部, 准教授 (50321279)
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Keywords | ソーシャルワーク / 原理と価値 / 自立と自己決定 / 近代市民社会 / 高次機能障害 / 構造主義的アプローチ / 「語り」のデータ / 相互に肯定する関係の原理 |
Research Abstract |
今年度は、昨年度の作業を踏まえ、実際の実態調査に着手した。調査対象は大分県下で回復リハビリテーション病棟4病棟、また大阪府下で大阪府社会福祉協議会が実施する「社会貢献事業」に携わるコミュニティ・ソーシャルワーカーと、社会貢献支援員併せて18名である。 昨年実証研究の方法に於いて検討したフリック(Flick.U)の提唱する「構造主義的アプローチ」を活用し、調査対象者に事例を用いたエピソード・インタビューを実施し、その「語り」のデータをナラティブに書き起こした上で、佐藤の提唱する「事例・コードマトリックス」の方法を用いて分析・解釈した。 そめ結果、自立し、自己決定できない患者やクライエントを対象とするソーシャルワーカーの実践を説明するコア・カテゴリーとして抽出されたのは、クライエントと彼や彼女を取り巻く人とのに間に、「相互に肯定する関係性を構築する」ことを行為原理として、ソーシャルワーカーたちが実践を行っていたことである。これは、例えば高次機能障害によって認知判断能力が低下した患者であっても、その家族や近隣、地域などとの環境との関係に於いて、彼らの存在を否定せず、肯定し受容するような暖かな関係性の形成をソーシャルワーカーたちが目指していることを意味する。たとえ自立し自己決定できなくても、その人たちに尊厳がないのではなく、彼らを取り巻く環境との関係に於いて、その尊厳を保障するよりな「関わり」のあり方を構築することを、ソーシャルワーカーは目指すのである。 しかし、「自立し、自己決定する」すなわち資本主義的な意味で「生産」出来ない人たちの存在を認めうる論理は、どのように構築できるのだろうか。本年度は実証研究により、事象の表象の描写には成功したが、その事象を支える論理的な構造を構築する必要性が次年度の課題として残されている。
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