Research Abstract |
脳血管障害に伴って生じる言語障害である失語症を評価する方法としては,既存の検査がいくつかある。しかし失語症者の日常コミュニケーションの様子を,観察手法によって調べる検査は未だみられない。本研究では,失語症者の日常コミュニケーション自立度評価法を開発することを目的にした。 今年度は,1つには,重度失語症者と会話パートナーとの1対1の会話場面を設定し,両者のコミュニケーション方法を分析した。2つの会話場面を設定し,1つは重度失語症者が関心ある話題(趣味など)について会話を行う場面,もう1つは4コマ漫画の説明場面とした。その結果,両場面ともに,会話パートナーが,「確認」や「閉鎖的な質問」などの技法を用いて,重度失語症者が反応しやすいコミュニケーション方法を提示することによって,重度失語症者の表情や会話への意欲などが,よい方向に変化することが明らかになった。つまり,重度失語症者の日常コミュニケーション自立度は,周囲の人々のコミュニケーション方法に影響を受けることが明らかになった。 2つめとして,失語症者が自分自身の日常コミュニケーションをどう捉えているか,つまり当事者本人が考えるコミュニケーションの遂行度と満足度を調査した。計9名を対象に,本人へのインタビューと質問紙によって検討した。その結果,全対象者ともに,コミュニケーションの満足度は比較的高い傾向にあった。一方,遂行度に関しては,「話す」面への評定が,「聞く」など他の側面に比べて低く,失語症者は「話す」面への不自由を感じていることが明らかになった。また「できない」とあきらめている思いも見出され,今後,日常コミュニケーション場面への介入が重要であることが示唆された
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