2011 Fiscal Year Annual Research Report
EUにおける中国系新移民の学校不適応に関する教育人類学的研究
Project/Area Number |
20530785
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
山本 須美子 東洋大学, 社会学部, 教授 (50240099)
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Keywords | 教育人類学 / 多文化教育 / 少数者教育 / 移住研究 / 中国系新移民 / 学校適応・不適応 / EU |
Research Abstract |
本研究の目的は、EU(特にイギリスとフランスとオランダ)に1990年以降に移住した中国系新移民を対象に、文化人類学的な現地調査を行ない、中国系新移民の子どもの学校不適応の実態とその要因を多角的視点から明らかにすることであった。今年度は4年間の研究のまとめの年として以下のことが明らかになった。 オランダとイギリスの場合、両国の中国系コミュニティが、飲食業に集中し全国に散住するという同じ特徴を有し、新移民流入後もこの特徴を保持したことによって、特定の学校に中国系新移民の子どもが集中することはなく学校では目立たない存在であり、個々の事例として主流社会の言語能力不足問題は把握できるが、学校において中国系という集団として問題が顕在化してはいなかった。フランスの場合は主流社会の言語能力不足に加えて、中国系新移民の子どもの欠席や退学問題が学校で顕在化していた。パリでは、オランダやイギリスよりも数の上で圧倒的に多い不法移民が集住していた。子どもの抱える問題の背後には親が子供を中国に残して先に移住するという家族の移住形態や、移住のための借金や不法滞在という地位によって家計が安定せず子どもを早く働かせたりするという親の社会的経済的地位が関わっていた。そして、フランスの学校では、親や中国系アソシエーションと連携をして文化的特質に配慮した教育が実践されていた。 言説レベルでは文化的異質性を排除してきたフランスの学校において問題が顕在化したゆえに中国系移民の文化的特質に配慮していた教育が行われ、多文化主義に基づいてきたイギリスとオランダの学校では問題が顕在化していないので特別の取り組みはされていなかった。現在EU各国の言説はシティズンシップを基調とする共和主義的な社会統合に収斂しているといえるが、教育実践の違いを生み出す要因としては「問題の顕在化」の方が移民の社会統合に関わる言説や政策よりも強く作用している。
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Research Products
(5 results)