Research Abstract |
黄色ブドウ球菌の哺乳類および昆虫食細胞による殺菌回避を導く因子の同定と感染免疫における役割 哺乳類TLR2経路の活性調節因子として黄色ブドウ球菌dltA遺伝子を見いだした。本遺伝子の働きにより,細胞壁タイコ酸がD-アラニン化を受け,これが細胞壁リポプロティンのTLR2リガンド活性を抑制することを見いだした。さらに,タイコ酸がD-アラニン化されることにより,昆虫の自然免疫応答も影響を受けるとわかった。すなわち,自然免疫受容体ペプチドグリカン認識タンパク質による微生物リガンドペプチドグリカンのリガンド活性が,D-アラニン化タイコ酸により低下するとわかった。この結果は,グラム陽性細菌細胞壁成分の修飾が,哺乳類と昆虫とで共通して,細菌の免疫系からの回避因子として機能することを初めて示した。 ショウジョバエの第二の貪食受容体とこれに認識される黄色ブドウ球菌リガンドの同定と本反応の意義 平成20-21年度の研究により,ショウジョウバエ食細胞ヘモサイトの膜受容体Draperと,黄色ブドウ球菌細胞壁成分リポタイコ酸とにより,細菌の貪食排除が規定されることがわかった。しかし,本反応の寄与は貪食排除全体の約半分であり,残りを担う貪食反応の存在が予想された。ショウジョウバエおよび細菌の遺伝学的解析より,ヘモサイトの膜タンパク質インテグリンbetanuが細菌貪食を担い,細菌細胞壁のペプチドグリカンが,インテグリンを介する貪食に必要であることがわかった。さらに,インテグリンを介する食食反応は,Draperと相加的に働くことがわかり,両者を合わせると黄色ブドウ球菌貪食のほぼ全活性を担うことが判明した。この結果は,一つのヘモサイトに二種類の貪食経路が存在することを意味し,昆虫も哺乳類同様に,複数の貪食経路により,物理的および機能的に相加的に恒常性維持を行うと考察することが可能である。
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