Research Abstract |
1. 関東・東海地域の畑作圃場では,近年防除困難な外来雑草による被害が増大している。生態的特性・個体群動態が不明な侵入種が多いことから,有効な防除技術がなく,その被害の実態すら解明されていないため,管理技術の選定すら困難な状況にある。そこで,コムギとダイズを連作する静岡県袋井市の水田転換圃場で,(1)侵入外来雑草による大豆作および麦作の被害実態の把握,(2)外来雑草の侵入・伝播経路の解明,(3)外来雑草多発圃場における雑草の個体群動態の解明を目的とした。 2. 麦作ではイネ科一年生冬雑草であるネズミムギが侵入,蔓延している。日本ではネズミムギによるコムギ収量への影響を数値化したものはない。地域レベルでの雑草による経済的被害を定量的に把握することは,被害レベルに応じた防除対策を講じるために必要である。そこで,ネズミムギが多発するコムギ圃場において,ネズミムギ発生量を達観調査により簡易的に査定する方法を開発した。達観調査に基づく査定ランクごとにネズミムギの発生量に明瞭な差があり,コムギの減収率を概ね適正に評価できた。 3. コムギ圃場に蔓延したネズミムギの侵入・伝播経路を明らかにするために,圃場内およびその周辺から収集したネズミムギのSSR多型を解析した。その結果,圃場外から圃場内に向って遺伝変異の減少が認められた。このことは,圃場外の道路端に緑化用として導入されたネズミムギが,圃場内へと侵入し,雑草化したことを示唆している。 4. 雑草化したネズミムギの個体群動態を解明するために,コムギ圃場内部と畦畔におけるネズミムギ種子の散布後捕食率と捕食者を調査した。その結果,圃場内部では,無セキツイ動物(コオロギ類,ゴミムシ類),げっ歯類,鳥類が主な種子捕食者と考えられた。水田転換圃場では,種子捕食はネズミムギシードバンクの重要な減少要因の一つであることが示唆された。
|