Research Abstract |
今年度は,微乳頭腺構造を有する肺腺癌切除例の標本をさらに集積するとともに,肺腺癌の根治切除症例209例を再検討した結果,I期肺腺癌例において,細胞形態的に微乳頭腺構造を示す細胞集塊の出現している一群は,明らかに予後不良であった。さらに,これらは脈管侵襲陽性の頻度が高く,また,臨床的にリンパ節転移陰性と判断されたものであっても,術後その約半数にリンパ節転移が組織学的に証明された。また,病理標本の検討からは,肺癌の原発巣辺縁部において,微乳頭腺構造が目立つこと,さらに,リンパ管ならびに肺胞構造に癌細胞集塊が浮遊しているように存在すること,臓側胸膜浸潤と関連性が深いこと等の特徴が明らかとなった。予後に関しては,I期症例の中で,細胞診により微乳頭腺構造を有する群と有さない群の予後を比較した。その結果、有する群の4年生存率は81%であり,これに対し有さない群は96%で,微乳頭腺構造のある症例は予後不良の傾向であった(P=0.113)。これらの検討の結果、微乳頭腺構造を有する肺腺癌は臨床的にI期と判断されても,その50%ではリンパ節転移を有する可能性が高く,術後は外科的完全切除に加え、全身的な補助治療が必要であることが示された。なお,これらの検討の一部は専門雑誌Lung Cancerに掲載された。さらに,40例の組織学的に微乳頭腺構造を有する肺腺癌切除例を集積したところ,4年生存率は71%と不良であった。それらの手術検体の肺癌組織を用い,EP3受容体及びVEGFR1の抗体を使用して免疫組織化学染色を行った。その結果,EP3,VEGFR1ともに,微乳頭構造部分,高分化部分にover-expressionがみられた。しかし,間質においては,対照との差は明らかとはいえなかった。ゆえに,今回の検索の範囲内では,間質に誘導されたVEGFR1陽性細胞が腫瘍の浸潤転移に役割を果たしているとは結論付けることができなかった。
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