Research Abstract |
【目的】青年期男女および乳幼児を育児中の父親・母親における,親性レベルの違いや性差が,乳児の泣きに対する局所脳活動などに及ぼす影響を明らかにする。【研究方法】1.対象:18~22歳の出産・育児経験のない未婚の健常青年期男女計20名(男女各10名)。2.データ収集方法:情動喚起課題(乳幼児の映像や泣き声など)を提示し,乳児の泣き場面に対する感情変化の指標として局所脳活動(fMRI),心理指標(感情評定尺度)などを用いた。3.データ分析方法:局所脳活動(fMRI)では,聴覚刺激のみ,聴覚と視覚刺激のセッションを行い,乳児の泣き声課題とホワイトノイズ課題を比較した。さらに,既収集データ(青年期群,母親群,父親群)と合わせ,青年期男女親性準備性高値・低値群,父親・母親群,初産・経産群を比較した。 【結果】1.青年期男子(22名)女子(24名)の結果:聴覚刺激のみの課題では,青年期男子は,親性準備性低値群ほど,左後部帯状回(認知一般)の賦活が認められた。青年期女子は,低値群の方が,内側前頭回(注意など)の賦活が認められた。感情評定尺度は,男女とも低値群は「イライラする」「関心がない」といった不快感情を有意に高く抱いていた。2.育児中の父親(22名)・母親(26名)の結果:聴覚刺激課題において,父親群は母親群より,左下前頭回,左内側前頭葉,右上側頭溝(共感性)の賦活が認められた。感情評定尺度において,父親群は「イライラする」が有意に高かった。初経比較では,聴覚刺激のみの課題において,初産の母親は経産より左上側頭回(聴覚野),左中心前回/下前頭回の賦活が認められ,聴覚と視覚刺激課題では初産の父親は経産より,左中前回,右島の賦活が認められた。 【考察】以上の結果から,親性が低い青年期男女や日常の育児体験が母親より少ない父親に感情野の脳賦活が認められ,感情評定尺度では否定的な感情を抱いていた。さらに初産の父親母親は,経産より脳賦活が認められたことから,慣れないため泣き声を聞き分けようと努力していることが考えられた。これらの結果から,親性レベルと性差が,青年期男女および乳幼児を育児中の父親母親の,乳児の泣きに対する局所脳活動に影響を及ぼしていることが示唆された。乳幼児の泣きは親の虐待の引き金となることや、父親は育児支援の重要なキーパーソンであることから、性差を問わず泣きに慣れるための育児体験を積むことは重要と考える。このことは,虐待防止策につながる重要な結果と考えられた。
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