2010 Fiscal Year Annual Research Report
生体分子イオンビーム貯蔵リングによる分子-電子・光子衝突過程の研究
Project/Area Number |
20612019
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
田辺 徹美 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 名誉教授 (20013394)
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Keywords | 原子・分子物理 / 気相 / 加速器 / 生体分子 / イオン貯蔵リング / 電子-イオン衝突 / 電子捕獲解離 / 光吸収 |
Research Abstract |
1)S-S(Sは硫黄)ボンドはタンパク質構成上の重要な分子結合である。S-S結合を持つペプチド陽イオンに電子が衝突し、吸収される場合にS-S結合が切断される。この現象は衝突エネルギーがゼロ付近で起ることが知られていたが、新たに6eV付近でも起ることを発見した。このような切断はS-S結合を持つ全てのペプチドで起るのでなく、硫黄を含むアミノ酸残基Cysの隣にTyrなどのパイ電子を含むアミノ酸残基が存在する場合に強く起ることがわかった。生体分子イオンの電子捕獲解離は現在ホットトピックスであり、この発見の意義は大きい。 2)生体分子が光を吸収し分解する現象は古くから知られているが大部分は液相での研究で、気相での研究は少ない。一方、イオン貯蔵リングを用いればこの現象を気相で、高感度で測定できる。従来、イオン貯蔵リングでの研究はパルスレーザーの発光間隔100msに同期させてイオンを入射していた。一方、分子イオンはイオン源で生成された時点では多くの回転、振動励起状態を含んでいる。このような励起イオンも長い間貯蔵することによって励起状態を緩和させることができる。本研究では、緑色蛍光タンパク質(GFP)発色団(chromophore)負イオンを秒オーダーに及ぶ長い時間貯蔵することによって、光吸収後の励起イオンの寿命がのび、光吸収スペクトルが変る現象を発見した。このことによって、より精密な吸収スペクトルが観測されることになり、この分野の研究に及ぼす意義は大きい。
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