Research Abstract |
土器付着炭化物の起源を探るために、AMS-14C年代測定、安定同位体分析、ステロール分析法を有機的に結びつけ、古食性の解明を試みた。特に, 試料は, 考古学的な由来がきちんと整った遺跡の同一包含層から出土した複数の遺物に焦点を絞った. 複数の遺物間の見かけ上の炭素年代の大小関係を, 測定した遺物の由来や生育環境などを考慮して, 詳細に考察した結果, 海洋リザーバー効果の観点から, それらの複数の遺物間の炭素年代の関係を包括的に理解することができた. 陸上から海洋へと測定した試料を並べてみると, 海の影響が強くなるにつれて, 海洋リザーバー効果が強く現れる. また, その関係から大きく外れるものは, その試料特有の理由が存在するのか, あるいは, 何らかのコンタミネーション(試料の混入)である可能性が高い. 例えば, 東道ノ上(3)遺跡から出土した貝類が示す海洋リザーバー効果の大きさは, ヤマトシジミが180年, マガキが270年, アサリが450年と次第に大きくなっていく, このことは, 貝類の生息環境が淡水から外洋へ変化し, 塩分濃度が上昇することに対応している, また, 浜中2遺跡からは, 遺跡周辺を流れる宗谷海流が示す海洋リザーバー効果よりも, 200年以上も古い炭素年代を示す土器付着炭化物が見つかった. 化学分析による詳細な検討と考古学的な所見によって, ニホンアシカを調理した痕跡と考えると, それらの炭素年代の関係をうまく説明することができることがわかった. それは, ニホンアシカが摂取する魚介類が, 海洋リザーバー効果の大きな東サハリン海流などの寒流の影響を強く受けていた可能性が高いためと考えられる. 人骨を含めた各遺物が示す炭素年代は, 海洋の影響を受けた程度(海産物を摂取した割合)に応じて変化する. その原理をうまく利用することによって, 複数の遺物の間にみられる見かけ上の炭素年代の大小関係から, 当時の遺跡環境における, 各遺物の食性の関係(摂取した食料の違い)を読みとることができるかもしれない. 今後, 炭素年代を狂わせる海洋リザーバー効果という現象を逆手にとって, 例えば同時代の海洋環境に存在するものの人間が直接利用することが困難であった深魚を摂取する海獣, 遺物として出土しにくい表層の魚介類などを摂取する海鳥などの動物骨やそれらを調理した際に生じる土器付着炭化物などを用いて, 当時の海洋環境を評価し, 生業を復元する研究に発展していくかもしれない.
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