Research Abstract |
本研究は,黄砂表面における多環芳香族炭化水素(PAH)とガス状物質との反応,とりわけ強変異原性ニトロ化PAH(NPAH)の非意図的生成に関わる反応について模擬大気実験系を用いた実験を行い,黄砂表面が関与する大気内NPAH生成反応過程を明らかにするとともに,実大気観測によって長距離輸送中の黄砂表面におけるNPAH生成の実態を明らかにすることを目的としている。 本年度は,前年度に構築した黄砂表面におけるPAHの反応を検討するための反応実験チャンバーを用い,代表的なPAHとしてピレンを黄砂に担持させて反応実験に供した。反応として,SO_2共存下におけるNO_2との気-固不均一反応を検討し,PAHの減少と対応するNPAHの生成を経時的に追跡した。ピレン濃度の測定は蛍光検出HPLCを,生成NPAH濃度の測定はGC/MSを用いてそれぞれ行った。 その結果,フィルターに直接担持させたピレンとNO_2との反応はSO_2共存下においても非常に遅く,10時間の反応後も生成物はほとんど検出されなかったのに対して,黄砂上に担持させたピレンからは生成物として1-ニトロピレン(1-NP)を検出した。生成1-NPの濃度は,SO_2非共存下と同様反応時間1~2時間で最大となり,その後徐々に減少した。一方,反応開始4時間後からジニトロピレンの生成も確認され,その濃度は8時間の反応後最大に達した。これらニトロピレンの生成は,黄砂粒子の触媒作用により加速されたものと推察されるが,SO_2が共存することによる反応への影響は明確には認められなかった。 また,本研究期間中は国内において大規模な黄砂飛来が認められず,実大気黄砂粒子中におけるNPAHの生成を確認することはできなかった。
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