2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720166
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Research Institution | Miyagi University of Education |
Principal Investigator |
堀田 幸義 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (20436182)
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Keywords | 日本史 / 武家 / 名前 |
Research Abstract |
本研究は、仙台藩で見られた法による人名統制を単なる個別藩レベルに止まらない近世社会の特質として描き出すことを目的としている。H22年度までの成果だけでも近世期の日本列島の至る所で法による人名統制が行われていたことを明らかにすることは可能だと思われたが、武士身分による苗字帯刀の独占状態という当該社会特有の状況についても探る必要を強く感じた。そこで、H23年度は、今一度仙台藩に立ち戻り、苗字の問題をも含めその全体像を解明することに努めた。その結果、以下のことがわかった。戦国期以来の由緒を持つ百姓・町人や旧武士層を大肝入・肝入や検断などに登用することで在地支配を進めていった仙台藩は、17世紀後半に、彼らから苗字を奪い、刀を奪い、「官名」・「受領名」を奪っていくことによって被支配者身分たる凡下の体を強制し、かつ、支配者身分たる士身分の表象として苗字帯刀を位置づけていく。ところが、18世紀後半以降、財政の窮乏化が進んでいく中で藩は成長著しい「富商富農」から直接献金を募り、ここに数多くの金上侍の台頭と苗字を名乗り刀を差す凡下の急増を許し、貧しき武士を侮る者まで出現させてしまう。藩政期を通じて禁字法令や呼称規定を出し藩主を中心とするヒエラルヒーを表現しつつも、民衆から苗字や官途・受領名を奪うことによって際立たせた筈の士身分の表象は藩の採った政策によってぼやけていく。また、18世紀後半~19世紀前半の仙台城下町では、日々の糊口をしのぐため在郷へ移住する士が増え、武家屋敷地の空洞化が進み、そこへ凡下たちが進出する一方、町方へと居を移す士や「手細工等」を以て家計の足しにするため町方へと出入りし町人たちと親しくなる士たちも見られるようになる。こうして居住空間や果たすべき職分、名前や姿形など日常生活のあらゆる局面で両者に違いを設け、士と凡下との区分を明確にする近世社会の本来的なあり方が大きく崩れていくことになる。
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