Research Abstract |
本研究課題の目的は,日本特有の会計制度や会計環境が,経営者の会計行動に与えた影響について実証的に分析することであった。第一に,わが国では2000年3月決算期から連結財務諸表が主たる財務諸表として導入されたことを鑑みて,この制度が経営者行動に与えた影響を分析した。具体的には,連結財務諸表と親会社単独財務諸表が開示されるというわが国の現状を考慮して,連結利益と親会社単独利益の利益調整の比較分析を行った。その結果,(1)1980年から1999年までの単独財務諸表が支配的であった期間においては,連結利益よりも単独利益の減益回避および損失回避の利益調整が顕著である,(2)新連結財務諸表が導入された以後は,連結利益の利益調整が盛んになっている,ということを明らかにした。本研究は,ニューヨーク大学が発刊するJournal of International Financial Management and Accountingという査読付きの国際ジャーナルに掲載された。第2に,日本の会計基準の下では,貸借対照表の純資産の項目内に,損益計算書を経由しない評価損益項目であるダーティー・サープラス項目が計上される。この項目は自己資本比率の構成要素となるため,当該項目が社債の金利スプレッドの決定に与える影響を分析した。その結果,その他有価証券評価差額金と為替換算調整勘定は金利スプレッドに影響を持つ一方で,土地再評価差額金は説明力を有しないことが明らかとなった。本分析は,という査読付きジャーナルに公刊された。第3に,日本企業の利益調整行動を体系的に分析した書籍(「日本企業の利益調整-理論と実証」)を刊行した。本書では,日本企業の利益調整行動について様々な角度から分析を行い,とりわけ日本企業に特徴的な会計制度やコーポレート・ガバナンス・システムに注目して,日本特有の利益調整行動を検出することに成功した。
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