2010 Fiscal Year Annual Research Report
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20770053
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松本 幸久 北海道大学, 大学院・理学研究院, 研究員 (60451613)
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Keywords | コオロギ / 加齢性記憶障害 / 嗅覚学習 / 視覚学習 / 色覚学習 / NO-cGMP系 / 長期記憶 / ニコチン型アセチルコリン受容体 |
Research Abstract |
前年度までに申請者はコオロギの嗅覚学習、視覚学習、色覚学習のいずれにおいても長期記憶の形成にのみ加齢性記憶障害(ボケ)がみられ、またいずれも学習訓練前にNO-cGMP系の促進剤を投与することでこの長期記憶のボケが完全に回復することを示した。これらの結果から申請者は「コオロギの加齢依存の長期記憶の低下は加齢に伴うNO-cGMP系の活性の低下によって引き起こされる」という作業仮説を立てた。しかし、加齢による影響を受けるのはNO-cGMP系そのものではなくその上流のシグナル伝達系であるという可能性が残されていた。そこで本年度は長期記憶形成過程においてNO-cGMP系の上流で働く生体分子を薬理行動学的に探索した。その候補分子としてニコチン型アセチルコリン受容体(nAChR)、ムスカリン型アセチルコリン受容体(mAChR)、グルタミン酸受容体、セロトニン受容体、プロテインキナーゼC(PKC)、DNAメチルトランスフェラーゼ、セリンプロテアーゼ、チロシンキナーゼに注目した。これらの阻害剤を若い成虫コオロギに投与し、嗅覚学習の記憶の諸過程(短期記憶の形成、長期記憶の形成、記憶の保持、記憶の想起)のいずれに影響を与えるのかを調べたところ、これらの候補分子は全て記憶の諸過程のいずれかに関わっていることがわかった。その中でnAChRが長期記憶の形成のみに関与することがわかった。そしてnAChRの活性化剤または阻害剤とNO-cGMP系の活性化剤または阻害剤の同時投与実験により、長期記憶形成過程においてnAChRがNO-cGMP系の上流で働いていることが示唆された。さらに加齢コオロギにnAChRの活性化剤剤を投与したところ、ボケの回復効果が全くみられなかった。以上の結果から、コオロギの長期記憶のボケは、NO-cGMP系の上流ではなく、NO-cGMP系そのものの加齢による機能低下によることが示唆された。
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