2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20790059
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 麻衣子 The University of Tokyo, 分子細胞生物学研究所, 助教 (30420235)
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Keywords | Akt / 細胞運動性 / 癌悪性化 |
Research Abstract |
Aktは原癌遺伝子であり、様々な癌で異常な活性化が高頻度に観察されている。また、Aktの異常な活性化は癌の悪性度や抗癌剤耐性とも相関が高いことが報告されている。従って、Akt経路は癌の発生、悪性化、抗癌剤耐性における薬剤ターゲットとして有効であると考えられ、実際に多くのAkt経路を抑制する薬剤が開発されつつある。しかし、Akt経路を制癌の薬剤ターゲットとする際に非常に大きな問題点がある。すなわち、Akt経路は正常細胞の増殖・生存・代謝に重要である上に、Akt2のノックアウトマウスがインスリン抵抗性糖尿病の症状を示すことからも、Akt経路をやみくもに抑制することは生体にとって有害となる可能性が高いと考えられるのである。そこで申請者は「Aktの過度な活性化を抑制する」あるいは「Aktの癌悪性化により関わりの深い機能のみを選択的に抑制する」というストラテジーがAkt依存的な癌悪性化を制圧するのに有効であると考えた。申請者は最近、PAKというキナーゼがAktおよびAktの活性化因子PDK1に結合し、Aktの活性化効率を促進する「スキャフォールド分子」であることを見出した (Higuchi, et.al., Nat. Cell Biol., 2008) 。さらに興味深いことに、PAKはAktの基質全てのリン酸化を促進するのではなく、一部の基質のみのリン酸化を促進するという結果を得た。このことはすなわち、スキャフォールド分子PAKがAktのターゲット特異性を制御している可能性を示唆している。そこで本研究では、PAKがAktのターゲット特異性を制御するメカニズムを明らかにすることを目的とした。これまでに、優性抑制型PAKの発現によりPAK依存的な経路を阻害すると、増殖因子刺激によるAktの活性化が部分的に抑制されるが、このときAktの基質であるFOXO3aのリン酸化は部分的に抑制される一方で、GSK3およびBadのリン酸化は抑制されない、という結果を得ている。さらに、PAKがAktの基質特異性を制御することに関連して、PAKがAktの一部の生物学的機能のみを選択的に制御する可能性について検討した。現在までに、PAKとAktの結合を阻害することが期待されるPAK上のAkt結合部位断片 (350-407aa) を細胞に導入すると、増殖因子刺激依存的なマトリゲルへの浸潤性の上昇は顕著に抑制されるが、細胞生存およびタンパク質翻訳はあまり抑制されない、という結果が得られた。本研究より、Akt依存的な癌悪性化を制圧するための新しい薬剤ターゲットを提供することが出来ると考えている。
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