2010 Fiscal Year Annual Research Report
クリティカルケアにおける深部静脈血栓症予防と患者の心理的・神経的影響に関する研究
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20890148
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
田戸 朝美 山口大学, 大学院・医学系研究科, 助手 (30452642)
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Keywords | 深部静脈血栓症 / 理学的予防方法 |
Research Abstract |
〈研究の目的〉本研究は、クリティカルケア領域の患者に対し、より適切で安楽な方法で深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:DVT)の予防を行うべく、間歇的空気圧迫法(Intermittent Pneumatic Compression:IPC)・弾性ストッキング・下腿マッサージの3者における予防効果を検証し、患者に与える心理的・神経的負担の程度を明らかにするものである。このことから患者の身体的状況だけでなく心理面を考慮した看護ケアの提供につながると考える。 〈研究実績の概要〉対象として、侵襲の大きい手術のひとつである食道切除手術を受ける患者とした。食道癌に対する食道切除再建術は、術式自体が高侵襲であるうえ、患者は高齢・喫煙・飲酒歴等の背景を持つことが多く、ICUで全身管理が必要となる。静脈血栓塞栓症予防ガイドラインでは高リスク手術に該当し、術後肺血栓塞栓症の発生率は、3.2%とその他の手術に比較して、深部静脈血栓症の発生率が高いため、対象として選定した。食道癌術後患者に対し、間歇的空気圧迫法と下腿マッサージの2通りのクロスオーバートライアルを実施した。前年度の研究結果より、弾性ストッキングでの予防効果は、食道癌手術後患者に対しては、効果が不十分であると判断したため、方法から除外した。対象者に対し、術前に文書を用いて研究の目的と内容を説明し、同意を得た。同意後、DVTが存在しないことを下肢静脈エコーにて確認した上で正式な対象者とした。6名の同意を得たが、治療の目的でヘパリン投与となった2名、脳梗塞を合併した1名を除外した。結果として、IPCでは、血流量は増減を繰り返しており、駆出される血流量は一定に維持されていなかった。血液凝固反応では、IPCが血管内皮細胞を刺激し、内因性の抗凝固能を活性化していると思われた。下腿マッサージでは、血流量はIPCと比較してほぼ同等を保っており、蓄積された静脈血を一気に駆出し、中枢深部静脈へのクリアランス効果がもたらされたと考えられる。血液凝固反応では、線溶系亢進の可能性を示すものがあった。以上のことから、下腿マッサージはDVT予防に有効である可能性があるが、その適応・応用については、さらにデータを蓄積していく必要があると考える。よって、基礎研究と合わせて考察すると、クリティカルケア領域の患者に対してDVT予防としては、IPCの予防効果は充分であるが、拘束感などの主観的要因や皮膚・神経障害などのトラブルもあり、継続使用困難な症例もある。下腿マッサージは、血流・凝固反応の面からIPCと同程度の効果が期待でき、リラックス効果もあることから、IPCと併用、またはIPC離脱症例に対する予防方法のひとつとなる可能性があると考える。
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