2020 Fiscal Year Annual Research Report
Construction of a General History of Religion in the Eastern Mediterranean World at the Jewish reformative period from the viewpoint of Lived Ancient Religion
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20H00004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市川 裕 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (20223084)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 久男 天理大学, 文学部, 教授 (00234633)
上村 静 尚絅学院大学, 総合人間科学系, 教授 (00447319)
土居 由美 神奈川大学, 国際日本学部, 非常勤講師 (50751038)
勝又 悦子 同志社大学, 神学部, 教授 (60399045)
長谷川 修一 立教大学, 文学部, 教授 (70624609)
葛西 康徳 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 準研究員 (80114437)
小池 寿子 國學院大學, 文学部, 教授 (80306901)
江添 誠 神奈川大学, 外国語学部, 非常勤講師 (80610287)
牧野 久実 鎌倉女子大学, 教育学部, 教授 (90212208)
高久 恭子 (中西恭子) 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (90626590)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 宗教学 / 考古学 / 生きられた宗教 / 一神教概念 / 古代ローマ宗教 / ラビ・ユダヤ教 / 宗教と法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究実施計画は、①ユダヤ教における変革、神殿祭儀からラビ・ユダヤ教への宗教意識の転換。②古代ローマ世界への一神教の影響の理解のため、いかにリュプケ式LARを導入するか、であった。その研究成果は次の二点にまとめられる。 1.リュプケ氏の主著の画期的な功績の吟味 リュプケ氏の主著を精査する中で、本書の新しさが古代宗教研究において改めて深く認識された。現時点ではそのうちの二点を挙げて今後の共同研究に生かすことを目指す。第一は、宗教史理解と方法論の吟味である。一神教の世界展開に伴って、世界宗教史は「儀礼としての宗教」から「複数の個人的宗教」へという理解は欧米の古代宗教学者に共通だが、リュプケ氏は前者においても儀礼を遵守する人しない人があり、基本は個人にとっての宗教から考察を始めるべきであるが従来十分には考察されていないとして、新たに宗教を定義し、そのための3つの要素を提示する。第二は、欧米の宗教史理解を相対化し、その理解の基礎をローマ帝国の特性に由来するものと捉えているので、欧米以外の文化的発展との比較研究が期待されている点であり、ここに本科研研究のねらいを設定できる。 2.ユダヤ社会から二つの一神教が成立するプロセスについての新たな視点の発見 リュプケ氏の視点では、ユダヤ社会における儀礼的宗教から個人タイプへの宗教史的変遷が考慮されないため、儀礼から法の宗教への変遷の考察が本研究の重要な課題となる。ユダヤ社会の生きられた宗教に当たる要素に食事と穢れをめぐる論点があることが、公開シンポジウムにおいて確認できた。また、ユダヤの宗教規範をイスラエルの神の啓示法と見なした信者において、生きられた宗教の実践形態として聖典学習が登場することが再認識された。ここから、ラビ・ユダヤ教を事例として宗教における教育と学問の発展を宗教史的に素描する可能性が追及され、モノグラフの完成を見た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発掘調査に代えて翻訳出版企画を計画に取り入れてたことにより、発掘による新発見の期待を犠牲にして、重要な研究書の日本語版作成による実質的な利益を目指すことで、研究の進捗状況を軌道修正できた。 本年度に予定したイスラエル国テル・レヘシュ遺跡の発掘調査は、コロナ禍が2年以上続いたため繰り越しても実現は困難だった。そのため発掘調査はコロナ後の可能な時期に続行するとして、リュプケ氏の研究の重要性に鑑みて、その主著『パンテオン』の読書会を実施しただけではなく、翻訳出版の必要性を痛感し、これを本科研実施期間の成果とするために翻訳準備作業を企画し実施した。当該著作の第8~13章の翻訳監修を完了し、前半第1~7章の翻訳を営為進めた。また、本書の日本語版序文に当たる内容紹介論文の執筆ならびに日本語訳の作成を行った。この成果は出版まで公表を控える。 3.
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Strategy for Future Research Activity |
本科研で心がけたい最大の課題は、特定の宗派だけを扱う宗教史的記述の弊害を減らすことであり、そのために参照するのがリュプケ氏の古代ローマ宗教史の視点である。研究の当初は、Lived Religionの観点を古代史に導入するリュプケ氏の視点を参照することにのみ重点を置いたが、実際に取り組む際には、より身近で具体的な問いを発見するために、さらに必要なことがある点に気づいた。それは、日本の研究者として、日本社会の都市住民の生活世界から問いを起こして、冠婚葬祭のような、日本語の概念から宗教的関心の発現形態を工夫して考察に生かすことであり、この点の考察も試みたい。 第2の課題として、一体感を持てる内容の論議ができるためには、ローマという都市に匹敵する都市をどこか特定することが可能かという問いが重要である。東地中海文化圏を対象として考えたいことは、帝国の東側はローマ以前の文化的特質が各地の都市住民に浸透しているので、多様な都市文化が展開したとされているため、リュプケ氏のローマ都市宗教論の成果を東地中海都市文化の考察に単純に適用することはできないだろう。都市の選択と研究の成果につながるよう、より活発な議論を交わしていきたい。
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