2020 Fiscal Year Annual Research Report
「奈良朝勅定一切経」の総合的研究ー漢文仏教テクストの資料的基盤の再構築に向けて
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20H00008
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Research Institution | International College for Postgraduate Buddhist Studies |
Principal Investigator |
落合 俊典 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 教授 (10123431)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本井 牧子 京都府立大学, 文学部, 教授 (00410978)
赤尾 栄慶 国際仏教学大学院大学, 日本古写経研究所, 研究員 (20175764)
杉本 一樹 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 客員研究員 (30809356)
宮崎 健司 大谷大学, 文学部, 教授 (50239381)
池 麗梅 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 教授 (50449360)
上杉 智英 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部美術室, 研究員 (50551884)
林寺 正俊 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (60449361)
藤井 教公 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 教授 (70238525)
三宅 徹誠 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80449363)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 奈良朝勅定一切経 / 漢文仏教テクスト / 奈良写経検索システム |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は総じてコロナ禍の影響で多方面にわたって種々の困難に直面した。対面での研究会はもとより調査も殆ど実施先送りとなっただけでなく、他の図書館での閲覧ですら支障があった。大半はオンラインによる意見交換が主となった。このオンライン会議は意外と細部の研究が進展することがあり、積極的な一面もあり対面研究会・会議の輔弼的役割を果たした。しかしより一層の具体的な検討会は対面での討議を必要としたので令和2年度に完成予定であった奈良朝勅定一切経データベースは繰り越しとなった。 研究の目的に沿った研究計画が当初予定と若干相違したとはいえ、奈良朝勅定一切経の翻刻とその詳細な点検を行うことによって五月一日経、特に正倉院聖語蔵の750巻に散見する朱字の特徴が五月十一日経と一致することが判明し、奈良朝勅定一切経の来歴について大きな知見が得られたことは大きい。五月一日経は当初『開元録』に基づき千七十六部五千四十八巻の経巻を書写する計画であったが、やがて別生経や章疏等も含めた包括的な一切経へと拡大していくが、単に総合的な経論章疏の集成だけではなく、正確な本文テクストを作成する営為が読み取れる。五月一日経に散見する朱字校正の校本に留意していくと校本は光明皇后願経の五月十一日経であることが判明した。これは奈良朝にあって、権威ある一切経テキストが二種類存したことの証左であり、隋唐の一切経テクスト研究に資する重要な発見となり今後の研究が俟たれることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のためにデータベースシステムの検討が遅延し、次年度に延期することとなったが、オンライン会議での検討会により当初見過ごしていた書誌データの項目が充実するようになった。また翻刻データの照合作業において敦煌文献や刊本一切経、および平安鎌倉写経との比較検討から、東アジアにおける一切経のテクスト本文の広範な展開が数多く見えてくるようになってきた。これは想定外の成果といえる。特に平安鎌倉の写本一切経中に刊本一切経を底本としている経が多々存することが分かった。これは奝然請来の開宝蔵(北宋勅版)を底本とした古写経であると言える。中でも平安写経の七寺一切経中には『出三蔵記集』巻十一に「太平興国八年奉勅印」の刊記があり直ちに理解できるが、『出三蔵記集』中で刊記を書写していないものも文字や行取りなどで推測できる。より良い善本を求めて書写活動が行われていたことが分かるのである。 また『大宝積経』111巻の奈良朝勅定一切経は開宝蔵(北宋勅版)と高麗版・思渓蔵と大きく異なり、新たな研究課題として取り上げることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の課題の中には漢文仏教テクストの資料的基盤の再構築という重要な一面がある。奈良写経はその時点で静止しているテクストではなく、後世に伝わったのであるが、具体的にどのように転写されたのか、またその証左となる証明方法は那辺にあるのか理論的定理まで上昇させることは容易でない。奈良朝勅定一切経の一巻を調べるには、取り敢えず平安鎌倉写経(金剛寺一切経・興聖寺一切経・七寺一切経)の三巻を画像化して検証しなければならない。加えて刊本大蔵経の福州版・宋版思渓蔵・磧砂版・趙城金蔵・高麗初雕版・高麗再雕版など5,6巻も加えなければならない。叡山版とか春日版など流布本系統も含めると実に膨大な巻数になる。これは一点の経巻での話しである。科研の五か年内に到達することは決して出来ない研究である。 そういうことからその検証方法の新しい理論が求められている。もし、新しい知見に基づいて、新しい方法によって検証を行うことが出来れば本研究課題を完遂したことになる。そのための新知見が、しかし、幸いなことに見つかり論文化された。林寺正俊「本文テクストから見た法道寺所蔵の天平写経『雑阿含経』の特色」(『日本古写経善本叢刊』第十輯所収)である。この論考に依れば日本古写経の最高級に位置する光明皇后五月一日経に書かれた朱字校正が光明皇后願経五月十一日経に他ならないと確定させた研究であった。 その新知見を十分活用したならば平安鎌倉写経の淵源が奈良朝勅定一切経にあると実証できるのではないかと考えている。
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Research Products
(9 results)