2022 Fiscal Year Annual Research Report
「奈良朝勅定一切経」の総合的研究ー漢文仏教テクストの資料的基盤の再構築に向けて
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20H00008
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Research Institution | International College for Postgraduate Buddhist Studies |
Principal Investigator |
落合 俊典 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 教授 (10123431)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本井 牧子 京都府立大学, 文学部, 教授 (00410978)
赤尾 栄慶 国際仏教学大学院大学, 日本古写経研究所, 研究員 (20175764)
杉本 一樹 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 客員研究員 (30809356)
宮崎 健司 大谷大学, 文学部, 教授 (50239381)
池 麗梅 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 教授 (50449360)
上杉 智英 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部美術室, 研究員 (50551884)
林寺 正俊 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (60449361)
藤井 教公 国際仏教学大学院大学, 仏教学研究科, 教授 (70238525)
三宅 徹誠 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80449363)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 奈良朝勅定一切経 / 漢文仏教テクスト / 奈良写経検索システム / 正倉院聖語蔵五月一日経 / 光明皇后願経五月十一日経 / 金剛場陀羅尼経 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画に従って、調査・研究を行った。共同研究会は9月10日に開催し赤尾栄慶・落合俊典・林寺正俊が奈良朝勅定一切経の発表を行った。奈良朝勅定一切経の調査では、石山寺・台東区立書道博物館・栃木県立博物館・朝日町歴史博物館等の経巻調査を行い、研究を推進した。『金剛場陀羅尼経』の国宝本(文化庁)と五月一日経本(正倉院聖語蔵)の熟覧調査は国宝本の他館貸出などあってその実施は令和5年度に順延された。また一昨年度立ち上げた「奈良朝勅定一切経データベース」では書誌情報と翻刻データの入力作業は順調に推進された。 奈良朝勅定一切経の研究では、『金剛場陀羅尼経』や『一切法高王経』等の文献学的研究のために研究班を組織しその成果をまとめる作業を行ったが、特に『金剛場陀羅尼経』研究ではチベット語訳と漢訳三本を比較考証して原典解明に注力したが、この過程で数多くの新知見が得られたことは大きな収穫であった。日本奈良時代の仏教文献が唐代、特に武周時代の思想状況と関係する可能性が高く、かつそれらの文献からインド仏教の新潮流が読み取れることも想定外の収穫であった。 これは、当初天平写経とされた五島美術館蔵『注金剛般若経』の調査によって新出文献であることが判明したばかりでなく、『金剛場陀羅尼経』と思想的に密接な関係にあることが見えた結果である。令和5年度には二文献をまとめて善本叢刊に掲載し上梓する予定である。 正倉院聖語蔵の五月一日経(勅定一切経)750巻の随所に散見する朱字校勘を、後代の平安鎌倉写経(金剛寺一切経・興聖寺一切経・七寺一切経)と比較対照し、日本古写経に二系統(天平A系・天平B系)が存する可能性を検証して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
猛威を振るった新型コロナも概ね沈静化し、調査・研究が通常通りに実施可能になったことが大きな原因である。調査の実施は当然であるが、研究者同士の活発な意見交換によって研究の深化・発展が多々見られるようになった。 国宝本『金剛場陀羅尼経』は紙背の年代書き込みから書写年代が疑われたが、奈良朝勅定一切経の五月一日経本との比較から国宝本を底本としたことが判明し、686年の写本であると確定した。さらに当該経典の原典考証を行った結果、本経がインド仏教中観派のチャンドラキールティーのプラサンナパダーに引用されていることや、地婆訶羅訳『金剛般若波羅蜜多経破取著不壊仮名論』(683年)にも引用されていることも分かり、本経は中観派が依拠した重要経典であることが見えてきたからである。 さらに五島美術館蔵『注金剛般若経』(平安初期)は従来全く報告が無かった文献であるが、これも地婆訶羅訳に依拠した注釈書であることまで判明し大きな成果となった。 このように研究の大きな進展が見られることから当初の計画以上と言うことができるのである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策は、コロナ禍で二ヵ年やや遅滞した諸事業を昨年度取り戻し、大きな成果を挙げたが、今年度ではそれらを成果(刊行物)として発表し、確実なものとしたいと考えている。 さらに調査によって新たな観点からの新知見が得られたことも多く,研究事業の目的としている奈良朝勅定一切経の基軸となる研究を万全なものとすべく鋭意注力する予定である。 奈良朝勅定一切経が有する資料的価値については、関連学会(東方学会)と共催するかたちで「日本古写経」としてパネルを設け、活発な意見交換を行うべく準備を進めている。
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Research Products
(13 results)