2020 Fiscal Year Annual Research Report
「奴隷」と隷属の世界史-地中海型奴隷制度論を中心として-
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20H00029
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
清水 和裕 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (70274404)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松井 洋子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00181686)
鈴木 茂 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 教授 (10162950)
弘末 雅士 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (40208872)
井野瀬 久美惠 甲南大学, 文学部, 教授 (70203271)
貴堂 嘉之 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (70262095)
高橋 秀樹 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80236306)
疇谷 憲洋 大分県立芸術文化短期大学, その他部局等, 教授 (80310944)
鈴木 英明 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (80626317)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 奴隷研究 / 比較史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、地中海型奴隷制度という概念を設定することによって、従来「奴隷制度」として扱われてきた固定的な「支配と抑圧」の制度を、各時代・地域における多様な隷属形態との連続性の中で捉え直し、その歴史的意義を問い直すものである。平成29年度から令和元年度にかけて実施された基盤研究(B)「地中海型奴隷制度の史的展開とその変容-隷属の多様性をめぐる比較史的研究」の成果を受けた発展的プロジェクトとして実施されている。 その目的に照らして、初年度(令和2年度)においては、当初の設定に従って中世イスラーム社会、アフリカ・インド洋海域、古代地中海世界、ポルトガル海洋帝国、ブラジル、大西洋海域、アメリカ、東南アジア、日本における奴隷制度・隷属制度について、各地域・時代ごとに共通な基礎データの予備的蓄積を行った。これらの地域・時代はそれぞれが固有の条件をもった歴史環境にあるため直接的な比較が困難なケースも多いが、それを克服するための議論を深化させた。このようにして、比較史のための包括的研究の基盤を整理するとともに、個別に史料調査・分析を進めた。 これと同時に、研究者間において奴隷制と隷属に関わる問題意識を共有しつつ、国際的な奴隷・隷属民研究をすすめた。その成果は国内外の学術雑誌その他に論文および著作として発表した。そのひとつが財団法人東洋文庫発行の欧文学術雑誌における本プロジェクト参加者を主体とした特集号の発表であった。 本年度の研究は新型コロナウィルス感染の急速な拡大に伴って、繰越、再繰越をおこなうことにより、令和2年から令和4年にかけて実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の研究は新型コロナウィルス感染の急速な拡大に伴って令和2年から3年にかけて国内移動や海外調査が実施不能になるなど、当初大きな困難を伴った。しかしオンライン研究会を実施したほか、繰越・再繰越の結果として令和4年に鈴木英明らが海外調査を実施することによって、最終的には当初期待した成果を得ることができた。 初年度として、各地域・時代ごとに先行研究の再精査を実施するとともにその問題点を抽出し、計画に従って基礎データの蓄積を開始し、比較研究の準備をすすめた。これらの成果・状況は、令和2年度内の2度のオンライン研究会で報告した他、翌年のFlavio dos Santos Gomes教授(ブラジル、リオデジャネイロ連邦大学)とのワークショップにおいても議論の基礎として共有された。 これらの成果は、国内外の学術雑誌その他によって広く発信されたが、特に令和2年度末には、財団法人東洋文庫発行の英文紀要Memoirs of the Resarch Department of the ToyoBunkoの78号において、本プロジェクトメンバーを主体とした特集The Comparative Study of Mediterranean and Non-Mediterranean Slavery and Bondage from Historical Perspectivesが組まれ、弘末雅士、清水和裕、松井洋子、鈴木英明がそれぞれ英文論文を寄稿した。 さらに4年間のプロジェクトの基盤を形成するために、国際的な奴隷研究に関する基本図書の購入をすすめ、特にインド洋海域およびポルトガル海洋帝国、古代地中海世界、イスラーム帝国に関する図書集成を構築した。また令和2年度末に本プロジェクトのホームページを開設(http://doreikaken.jp/jp/reports.html)した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に行った基礎データの蓄積を元として、翌年度から各年の研究視座(1)労働形態、(2)ジェンダーと再生産、(3)奴隷解放と隷属の連続性の比較研究を実施する。これらは、それぞれ国内におけるオンラインを併用した3回程度の研究会と、国際的なワークショップによってその研究を推進する。特に、初年度の議論の過程で、大西洋奴隷交易における北方海域と南方海域の差異が取り上げられ、南方海域におけるブラジルを中心とした奴隷制度の性格が、地中海型奴隷制度論のひとつの鍵となることが予想された。このため、本プロジェクトはブラジル研究者との連携を模索しており、(1)労働形態について、上述のリオデジャネイロ連邦大学Flavio dos Santos Gomes教授とのワークショップを令和3年度に実施。また(2)ジェンダーと再生産について、バイーア連邦大学のLuis Nicolau Pares教授とのワークショップを令和5年に実施予定である。さらに、令和5年にはリオデジャネイロにおいて、本プロジェクトが主導する国際シンポジウムを開催する。これらによって、地中海型奴隷制度の概念の検証をすすめるとともに、「奴隷」制度と多様な隷属のあり方の連続性についての比較研究をすすめ、国際的な奴隷研究の展開における日本独自の貢献を試みる。 これらの基礎として、各メンバーは担当する地域・社会の個別事例の研究を深化させつつ、常時、情報提供・情報交換を行い、連携して共同研究を行う。また、個々メンバーが海外における資料調査、実地調査を実施する。令和5年3月にはブラジルにおける海外共同調査を実施したが、令和5年度内にさらにカリブ海域における共同調査を実施し、前述大西洋奴隷交易における北方海域と南方海域の差異の検証に資する。
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Research Products
(20 results)
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[Book] ブラジル史2022
Author(s)
山田 睦男、鈴木 茂
Total Pages
240
Publisher
山川出版社
ISBN
463442391X
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