2021 Fiscal Year Annual Research Report
Development of the next-generation high-speed AFM and detailed dynamic behavior analysis of biomolecules
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20H00327
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
古寺 哲幸 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (30584635)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 原子間力顕微鏡 / 生物物理学 / タンパク質 / 一分子イメージング / 生体分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
高速原子間力顕微鏡(高速AFM)による観察可能な生命現象の広範化を図ることを目指して、現在の高速AFMの時間分解能を律するデバイス群を大幅に改良し、次世代型高速AFMの研究開発することを推進している。本年は、昨年度までに開発に成功していた高速振幅計測器と超高速Zスキャナーについて論文化した(Appl. Phys. Lett. 誌、Rev. Sci. Instrum. 誌)。また、昨年度までに開発していた超小型高速カンチレバーでは、水溶液中で10MHzの共振周波数をもつ性能を実現していたが、カンチレバーを10 MHz付近において十分に加振することができないという問題があった。そこで、本年は、カンチレバーを加振するための圧電素子とその圧電素子が取り付けられているカンチレバーの固定治具の機構の検討を行った。その結果、10 MHz程度の周波数帯であっても、生体分子を観察するために必要な数 nm程度の自由振動振幅を得ることができる機構を実現した。一連の主要デバイスの高速化が進み、再びZスキャナーが律速デバイスとなった。現存の圧電素子ではこれ以上の高速化が見込めないため、逆伝達関数とアクティブダンピング法を組み合わせた電子回路(共振コントローラー)を考案し、Zスキャナーの共振周波数とQ値を一緒にコントロールできるようになった(特許申請中)。また、開発途中の次世代型高速AFMを用いて、バイオ応用研究を進めた。たとえば、アクチン結合タンパク質CAP1の複合体のストイキオメトリー(J. Biol. Chem. 誌)、クエン酸塩トランスポーターの動作機構(PNAS誌)、マイコプラズマ・モービレの運動装置の形状(mBio誌)と細胞内での動き方(mBio誌)などを明らかにした。これにより開発した顕微鏡装置の性能を示すとともに、生物学的に意義深い新知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在の高速AFMの時間分解能を律するデバイス群を大幅に改良し、次世代型高速AFMの研究開発することを推進している。開発すべき要素技術は、①Zスキャナー、②デュアルZスキャナーシステム、③カンチレバーの振動振幅計測回路、④超微小カンチレバー、⑤超微小カンチレバー用の変位検出系である。これらを全て高速化・高S/N化することで、装置のZ方向の力制御に関わる周波数帯域(fB)を現行の装置の約7倍である約500 kHzにまで高めることを目標としていた。①、③、④、⑤に関する開発については、目標性能を達成することができ、①については、電子回路を用いた共振コントローラーの開発にも成功したことで、さらなる高速化が期待される状況となっている。③については、企業と共同してより高性能の計測器が実現できることが判明している。また、金沢大の安藤敏夫博士の研究グループによって、AFMの時間分解能を2倍高速化できるX走査の復路をスキップする走査方法が提案されたが(Fukuda & Ando, Rev. Sci. Instrum. 2021)、この手法をいち早く取り入れた。これにより、当初目標としていた走査速度の2倍程度まで高速化できることが見込まれ、目標としていた最速イメージングレートである10 ms/frameを上回る走査性能を持った高速AFM装置ができることが予想される。②は、回路シミュレーターを用いたシミュレーション実験を行い、原理的に実現可能であることが確認できている。また、開発途中の次世代型高速AFMを用いて、いくつかのタンパク質系でバイオ応用研究も進めている。たとえば、アクチン結合タンパク質であるCAP1は、コフィリンが結合したアクチン線維から大部分のコフィリンを解離させる機能があることが高速AFM観察から初めて明らかとなってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
開発を進めている要素技術である、①Zスキャナー、②デュアルZスキャナーシステム、③カンチレバーの振動振幅計測回路、④超微小カンチレバー、⑤超微小カンチレバー用の変位検出系のそれぞれの完成度を高めつつ、全ての要素を組み込んだ高速AFMにおいて装置全体の性能を評価する。また、開発した次世代型高速AFMを用いて、バイオ応用研究を推進していく。①に関しては、開発中の共振コントローラーの完成度を高め、Zスキャナーの共振周波数を2 MHz程度まで向上させることを目指す。②については、電子回路シミュレーション結果をもとに、真核細胞の観察用に開発した広域スキャナー(Marchesi et al., Sci. Rep. 2021)に応用し、真核細胞のAFM観察に利用可能であること立証する。また、高速バイオ応用研究については、従来型の高速AFMの時間分解能では観察できない現象をターゲットに推進する。具体的には、アクチン結合タンパク質であるCAP1がどのようにしてアクチンからコフィリンを解離させているのかの構造的な証拠を得る。また、染色体構造維持(SMC)タンパク質について、DNAとの相互作用の様子を詳細に解析する。従来型の高速AFMによって、SMCタンパク質がDNAと結合する様子まで見えているが、タンパク質の拡散運動がAFMの時間分解能に比べて速いため、分子形状の詳細まで解像できていない状況である。時間分解能が10倍程度改良された次世代型高速AFMによって、それらの現象を詳細に観察し、それらの機能メカニズムの理解を深める。また、学会や研究会などで積極的に進捗状況を発表し、次世代型高速AFM技術に興味を持ってくれた国内外の研究者と共同研究を推進し、一つでも多くの生命現象の詳細解明に寄与できるように努める。
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Research Products
(37 results)