2021 Fiscal Year Annual Research Report
キラル認識プロセスの分子論的考察ー分子構造と光学非対称性からー
Project/Area Number |
20H00333
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
桑原 裕司 大阪大学, 工学研究科, 教授 (00283721)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
服部 卓磨 大阪大学, 工学研究科, 助教 (10876965)
大須賀 秀次 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (50304184)
森川 良忠 大阪大学, 工学研究科, 教授 (80358184)
齋藤 彰 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90294024)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | キラル認識 / 探針増強ラマン散乱分光 / ヘリセン誘導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、キラル認識のメカニズムを、その分子配向・電子状態、および光学非対称性の単一分子レベル解析を通して考察・解明することを目指す。キラル分子として、安定性、構造の単純性に優れたヘリセン誘導体を研究対象とし、各種ヘリセン誘導体の合成およびキラル分離、固体表面上での低次元自己組織化構造の制御を行ったのち、OA-TERSを中心としたナノスケール複合分析システムを用いて、局所的な分子配列・配向と、ラマン振動状態解析・光学活性計測とを連動して、実空間、分子スケールでの電子状態・光学特性・振動特性を総合的に評価するものである。 本年度は、特に、ヘリセン誘導体の一つであるヘリセンジフェニル分子について主に実験を行った。本試料は、他のヘリセン誘導体とは大きく異なる、新奇な分子認識パターンを示し、分子個々のキラリティが容易に識別できることが特徴であった。さらに、エナンチオ生―間の相互作用が、他の誘導体とも異なることから、キラル認識の原因究明(電子的な相互作用、立体障害、基板との相互作用等)に適した分子種である。一方で、分子間の相互作用を解明するために、DFT計算に加えて、今年度から古典MD計算の使用を開始した。DFT計算、MD計算ともに、ヘリセン分子がAg基板に分子吸着していることが確認でき、さらにMD計算では、STMで観察された周期構造を完全に再現することに成功した。また新たに合成したヘリセンジベンゾイル分子についても、STM実験を開始、官能基の違いによるキラル認識の一般的な原因究明についての知見が得られつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、STM測定のさらなる安定化のため、Nanonisコントローラー純正の高圧電源を導入し、高分解能で再現性の高いSTM測定が可能となった。研究成果公表については、大きさおよび螺旋度の違うヘリセン分子のキラル認識を分子スケールで解析した論文(Y. Kuwahara, Appl. Surf. Sci. 589, 152860 (2022). IF 6.7) をヘリセンアルデヒド分子のSTM構造解析を論文として発表するなど、着々と成果発表を行っている。また、国内外での国際会議で招待講演(Y. Kuwahara, et al., 17th International Conference of Computational Methods in Sciences and Engineering (ICCMSE2021), 2021.09.04-07, Online (Greece). Prenary. Yuji Kuwahara et al. The 5th international symposium on “Elucidation of Next Generation Functional Materials/Surface and Interface Properties, 2021.10.07-09, Online (Japan), invited)を行い、研究成果の積極的な発信も行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度、TERS実験において、非常に大きな信号強度の減少が観察された。詳細な調査・検証を行ったところ、分光器(グレーティング)の表面の汚れ(経年劣化による)であることがわかり、新規グレーティングを購入した。今後はラマン光学系の調整を行い、TERS実験を再開する。本問題の解決により、信号強度の大幅な増強が見込まれ、スペクトルの精度・再現性の向上したデータ取得が期待される。また、過去2年間、進展が困難であった、国際共同研究を積極的に計画し、海外・国内での共同実験、詳細な情報交換についても加速させる。また、引き続き、成果発表にも力を入れる。
|