2020 Fiscal Year Annual Research Report
肥育牛の肉体的・精神的健康を目指す多様なセンサ群の開発とスマート畜産の先導
Project/Area Number |
20H00439
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
近藤 直 京都大学, 農学研究科, 教授 (20183353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 哲仁 京都大学, 農学研究科, 助教 (00723115)
小川 雄一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20373285)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 畜産 / 牛肉 / 血中ビタミンA |
Outline of Annual Research Achievements |
畜産においては生体情報計測センサの不足で情報化が遅れており,肥育牛生産では極めて正確な給餌や体調管理が要求される血中ビタミンA濃度(VA)の制御を行っているにも関わらず,経験と勘による給餌であることより,肥育牛に与えるストレスは小さくなく,VA欠乏症等に基づく事故も避けられていない。 本研究では消費者の需要と地域や農家の戦略に基づく効率的な肥育技術を確立するため,最重要課題である迅速なVA計測を初めとして,ばらつきのある個々の肥育牛の肉体的・精神的健康管理の行えるシステム構築を行う。 前年度までは目の画像からVAを推定するため、カメラを牛房に定置して目の画像を撮影していた。しかしこの方法では、牛房ごとにカメラを設置する必要があり、経費を要する。このため、カメラを携帯型(手持ちカメラ)として1台のカメラで牛房を巡回して撮影できるようにした。そのカメラは眼底撮影用LED,リングLEDを切り替えて点灯することで眼底画像と瞳孔画像が得られるものである。それらの画像より瞳孔色(眼球内散乱色),輝板色,瞳孔収縮速度,眼球表面の光強度の特徴量を抽出してVA推定を行う。 また、これまでに血清のEEMデータからVA推定を行ってきたが,本研究では簡便,迅速,低侵襲な検査システムに進化させるため,数滴の全血を利用したVA計測技術の可能性を明らかにする。まず,肥育牛から血液を10 ccずつ2本血液採取し,蛍光分光光度計でEEMデータを取得する。1本は採取直後の全血に対して時間的変化,光に対する変化を観察しながら機械学習でビタミンAが計測可能か否かを調査する。もう一本は遠心分離して血清にした後,蛍光分光光度計でEEMデータを取得する。同時に藤原製作所製の蛍光を用いたビタミンAおよび外部委託してHPLCで検査したビタミンAとの比較を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の携帯カメラは、ノートパソコンやLED制御回路等を手押し車に乗せて、カメラとの間をケーブルでつなぐ方式であり、AC100 Vの電源をコンセントから電源ドラムで供給する必要がある。実験は兵庫県立但馬農業高校で、約30頭のウシを対象に行い、得られた画像から画像処理により特徴量を抽出するとともに、HPLCにより計測したビタミンAの計測値と画像特徴量により推定したビタミンA濃度と比較した。また、この方式では、手押し車を押してコンピュータを操作する人とカメラを牛眼に向けて撮影する人の、2人以上の人手を要する。より簡易に撮影できるよう、コンピュータやLED制御回路等を小型化するとともにカメラと一体化する方式に改造した。今後、このカメラを用いてデータを蓄積してビタミンA推定精度を向上させる予定である。 血液の蛍光分光分析においては、肥育牛約30頭から血液を10 ccずつ2本採取し、一方はそのまま蛍光分析に,他方は遠心分離して血清としHPLCによりビタミンAの実測値を得た。のべ計132頭分のEEMデータを集約してPLS解析を実施したところ、前述のとおり高い精度で推定できることが確かめられた。また、推定モデルへの寄与の高い励起310~345nm,蛍光450~550nmの波長域に限定して解析したところ、決定係数R2は0.87,RMSEPは10.89,RPDは2.71を示し,波長域を縮減してもスクリーニング検査として用いることが可能とされる数値が得られた。これにより、LEDなどの安価で小型な光学素子を用いた可搬型専用機への応用が期待される。さらに、市販の「プラズマフィルタ」を用いて簡易的に血球除去を用い、ろ液の血漿成分がしみこんだろ紙の蛍光分光分析を行った。その結果、ろ紙自体の蛍光が強く、ビタミンAの蛍光ピークが確認できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
従来は画像を研究室のコンピュータに蓄積して、多変量解析によりVAを推定する方式であったが、今後は携帯カメラのコンピュータで撮影するとともに、即座にVA推定値を表示できるようにする予定である。そのため、従来の携帯カメラの画像を含め、小型化したカメラの画像も用い、多くのデータを蓄積して、画像特徴量からビタミンAを推定する検量線を作成する。 微量血液の蛍光分析においては、引き続き採血及び計測を継続してデータを蓄積し、供試データ数を増やすとともに、季節や肥育ステージが推定モデルに与える影響を評価する。オレイン酸など、ビタミンA以外にも有用な指標の推定方法についても検証する。また、LEDやフォトダイオード検出器などをブレッドボード上に組み立てて小型計測装置を試作し、測定精度の検証を行う。
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