2020 Fiscal Year Annual Research Report
脂肪酸代謝ネットワークによる生体制御およびその制御破綻による疾患メカニズムの解明
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20H00495
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
有田 誠 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (80292952)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脂質 / リピドミクス / 生理活性 / 生体分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、好酸球がマウス急性腹膜炎の適切な収束に寄与すること、この機能が脂肪酸代謝酵素である12/15-リポキシゲナーゼ(12/15-LOX)依存的であることを報告してきた。今回、12/15-LOX欠損マウスにおいて角膜上皮組織の創傷治癒が遅延すること、この機能が好酸球に発現する12/15-LOX依存的であることを明らかにした。さらに、好酸球が生成する12/15-LOX由来代謝物の中から、点眼により角膜の創傷治癒を促進する機能性代謝物17-HDoHEを同定した。また、生体内の脂質多様性を網羅的に捉えるための解析アルゴリズムを構築し、約8,000種の脂質多様性をノンバイアスに捉えるノンターゲットリピドミクス解析システムの構築に成功した。この新技術を用いて、血管内皮細胞がlaminar shear stressに晒されることで中鎖脂肪酸含有エーテル脂質の生合成が誘導され、この細胞内代謝応答が血管内皮ホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすことを解明した。また、腸内細菌叢の脂質多様性を解明するためのノンターゲットリピドミクス解析を行い、Acyl alpha-hydroxy fatty acid (AAHFA)をはじめ、腸内細菌が生成するユニークな脂質分子の新規同定を実践した。また、赤痢アメーバ脂質のノンターゲット解析から、栄養体期からシスト期に移行する際に特徴的に誘導される超長鎖アシル基含有セラミド分子種を特定し、これが膜透過性の制御および生存・寄生適応に必須であることを明らかにした。さらに、グラム陰性菌由来Lipid Aの構造多様性を包括的に計測できるリピドミクス解析技術を開発し、単一菌株内にLipid Aの脂肪酸鎖長に多様性があること, さらにその鎖長分布が菌種と相関することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
未知分子探索型のノンターゲットリピドミクス解析技術の開発に成功したことにより、炎症・代謝疾患など様々な疾患の背後に潜むリスク要因としての脂肪酸代謝ネットワークの変化を高網羅的に可視化することが可能になり、病態メカニズムの解明に加えてこれまでに知られていない脂質の生体調節機能や生理活性分子の同定につながる状況になった。これにより、創薬標的となる機能作用点の特定、および新しい治療法の開発に向けた基盤研究が飛躍的に進むことが期待される。これら基盤技術を活用することで、血管内皮細胞がずり応力に適応するための細胞内エーテル含有脂質の代謝変動分子メカニズムとして細胞内脂質代謝リモデリングの解明や腸内細菌叢が生成するユニークな脂質分子の新規同定につながった。また、脂肪酸代謝バランスの変化による疾患制御の分子メカニズム解析として、角膜上皮組織の創傷治癒において好酸球の役割を解明し、そこから生成する脂肪酸代謝物の中から、点眼により角膜の創傷治癒を促進する機能性代謝物17-HDoHEの同定に成功した。いずれも当初の計画以上に進展し、今後の発展性が大いに期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き最先端のリピドミクス解析システムや脂肪酸代謝酵素の遺伝子改変動物を用いることで、多彩な脂肪酸代謝ネットワークによる生体制御およびその制御破綻による疾患メカニズムについて、その因果関係を分子レベルで明らかにする。とくに、リピドミクス計測で得られたマススペクトル情報から代謝物の同定を行うmolecular spectrum networkingを構築し、さらに得られた脂質分子の定量結果を代謝マップに投影するシステムを整備することで、疾患やバイオロジーと相関を示す代謝経路の解析を加速させる。また、ω3脂肪酸の機能性発現に関わる生体内の代謝酵素の遺伝子改変マウスの解析を引き続き行い、炎症・代謝疾患における個体レベルでのω3脂肪酸代謝系の生理的意義に迫る研究を展開する。また、生体膜を構成する脂肪酸分子種の多様性や不均一な分布について、とくに分子集合体として「場」の制御に関わる脂質の機能を理解する上で、特定の組織や細胞で特徴的な脂肪酸環境を可視化するために質量分析イメージング手法を適用し、特定の脂質場の形成・維持に関わる分子機構の解析を進める。
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Research Products
(22 results)
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[Journal Article] A lipidome atlas in MS-DIAL 42020
Author(s)
Tsugawa Hiroshi、Ikeda Kazutaka、Takahashi Mikiko、Satoh Aya、Mori Yoshifumi、Uchino Haruki、Okahashi Nobuyuki、Yamada Yutaka、Tada Ipputa、Bonini Paolo、Higashi Yasuhiro、Okazaki Yozo、Zhou Zhiwei、Zhu Zheng-Jiang、Koelmel Jeremy、Cajka Tomas、Fiehn Oliver、Saito Kazuki、Arita Masanori、Arita Makoto
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Journal Title
Nature Biotechnology
Volume: 38
Pages: 1159~1163
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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