2022 Fiscal Year Annual Research Report
網膜と視覚野の情報処理と通信に学んだ脳刺激型人工視覚の開発
Project/Area Number |
20H00606
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
八木 哲也 大阪大学, 国際医工情報センター, 招へい教授 (50183976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 和男 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (10291527)
林田 祐樹 三重大学, 工学研究科, 教授 (10381005)
武内 良典 近畿大学, 理工学部, 教授 (70242245)
廣瀬 哲也 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (70396315)
高橋 啓介 愛知淑徳大学, 健康医療科学部, 教授 (80236273)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 視覚再建 / 人工視覚 / 皮質電気刺激 / ニューロモーフィック網膜 / 低消費電力 / 画像情報圧縮 / 画像情報通信 / 光覚シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
網膜視神経の応答を模倣したニューロモーフィック網膜(NM網膜)を用いた脳刺激型人工視覚システムを構築するために、本年度は以下のことを実施した。 1.昨年までの研究から、申請者らが開発したNM網膜の出力を用いて視覚野に埋植された電極を駆動することにより、体外モジュールと体内モジュール間の通信コストを大きく抑えることができることが分かった。NM網膜のスパイク画像出力を、実時間で情報圧縮するためのコアプロセッサ内臓集積回路を設計・レイアウトし、実際にチップ化した。またこの試作チップの性能を試験するための評価ボードを作成し、試作集積回路を評価した。当初の計画どおり、64x64画素の情報をリアルタイムで圧縮できることを確認した。 2.人工視覚において視覚情報はNM網膜→体外モジュール→体内モジュールへと伝達される。上記1により試作された情報圧縮評価システムをもちいて、体内と体外モジュールの間の無線通信を試験するための通信ボードを設計・製作した。NM網膜出力を模擬する制御信号をもちいて、通信がリアルタイムで実行されることを確認した。 3.NM網膜と試作したプロセッサ内臓集積回路とのインターフェイスアルゴリズムを開発した。現在このアルゴリズムをシミュレーション評価中である。 4.昨年度に完成した心理物理実験用シミュレータを用いて、実験室空間および実空間においてナビゲーション実験を行い、人工視覚が有効となる最低電極数とその配置条件を精査した。電極数は、最低64x64程度以上が必要であると結論した。この数は現在開発しているシステムの条件に合致する。またこの範囲で最適な光覚パターンを惹起する電極配置について検討を加えた。 5.体内モジュールにより埋植電極を駆動することを想定して、プロセッサ内臓集積回路と現有の埋植電極刺激チップを結ぶアルゴリズムを考案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
NM網膜のスパイク画像出力を実時間で情報圧縮するためのコアプロセッサ内臓集積回路については、ほぼ期待通りの性能を確認することができた。また予想したよりチップのレイアウト面積が小さくレイアウトでき、今後さらにチップを小型化する、ないしメモリ部を増設して処理画素規模を拡大することが可能と判断された。この点は予想以上の結果であった。無線通信試験については、評価ボード試作に手間取ったため通信試験が遅れ、予定を繰り越して実施にこぎつけた。ただし試験の結果、リアルタイムの通信ができることを確認したものの、期待したほどの低消費電力が達成されておらず、通信プロトコルの改良が必要である。この点が予定より遅れている。NM網膜と試作したプロセッサ内臓集積回路とのインターフェイスアルゴリズム開発においてはほぼ順調であり、現在このアルゴリズムをシミュレーションにより評価中である。以上の画像通信アルゴリズム開発を通して、開発手法が画像情報通信一般において新規性、独自性、波及性があると判断し、ロボットビジョンなどへの応用を視野に入れた研究を追加している。この点は当初予想した以上の成果と考えている。人工視覚再建に有効となる最低電極数とその配置条件の精査から電極数は、有効な光覚パターンを惹起する電極配置について他の国内外研究グループより詳細な検討を加えている。以上、通信機能については期待した性能を達成していない点で当初計画より遅れているが、他方で情報通信一般への応用が見えたという点において、当初において予想、期待していた以上の波及性を見出すことができた。これらの状況から総合的にはやや遅れていると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
体内モジュールと体外モジュールの無線通信部分は、現状では期待したほどの低消費電力化が達されていない。しかしながらこの部分は本研究提案の独創・独自性および国内外のグループのデザインに対する優位性に関わる重要課題であるので、重点的に取り組み、是非とも達成を目指す。解決手段として、圧縮信号を通信している時間帯以外はモジュールをスリープさせることによって、目標とする10mW以下での動作が可能であると考えている。人工視覚によって再建される視覚は、健常者の視覚とは大きく異なるものであり、人工視覚治療の可能性とともにその限界を示すことは臨床応用にとって重要である。そこで光覚パターンのシミュレーションについては、理論的な視野-脳表地図からのずれを考慮したより現実に近い光覚パターンを再現して、人工視覚によってどの程度の視覚再建が可能かを推定・評価する。以上を中心課題として、全体のシステムを統合し、本研究で提案する人工視覚デザインの有効性を示す。また課題遂行の中で、ニューロモーフィック網膜による画像圧縮符号化-通信-画像情報展開が、ロボットビジョンやネットワーク画像通信・理解にも有効であることが見えてきた。この方向への展開は、独創的であり波及性からみてインパクトが高いと考えている。本研究で開発しているアルゴリズム/アーキテクチャを特殊環境(例えば水中)での画像処理・通信に応用する可能性についても並行して策定していく。
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