2021 Fiscal Year Annual Research Report
Japanese thought of the post-war in Eastern-Northen Asia
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20H01197
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鷲巣 力 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (30712210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加國 尚志 立命館大学, 文学部, 教授 (90351311)
小関 素明 立命館大学, 文学部, 教授 (40211825)
福間 良明 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70380144)
富永 京子 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (70750008)
樋口 陽一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (60004149)
三浦 信孝 中央大学, その他部局等, 客員研究員 (10135238)
李 成市 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30242374)
金子 元 秀明大学, 学校教師学部, 非常勤講師 (20869292)
中尾 麻伊香 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (10749724)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 戦後日本思想 / 加藤周一 / 丸山眞男 / 竹内好 / 鶴見俊輔 / 東北アジア / 近代化 / 雑種文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は以下の研究を軸にして進めた。第一は、2019年に東京日仏会館との共催で催した「加藤周一生誕百年記念国際シンポジウム」で、立命館大学側は「東北アジアにおける加藤周一」を主題とした。この国際シンポジウムの記録は『加藤周一を21世紀に引き継ぐために』(水声社、2020)として刊行された。2021年5月には、これを延長させるために同書の合評会をオンラインで催し、この合評会にはシンポジウムに参加した講師のみならず質疑応答で貴重な意見を出された先生方、新たに本研究計画に加わった中国研究者も参加した。そしてこの合評会の記録を少部数であるが冊子として2022年3月に刊行した。この冊子は本研究計画の礎になるものと位置づけている。 なお本冊子を編集したのは半田侑子研究員であるが、同氏が『立命館大学人文科学研究所紀要』(2021年12月)に発表した「「雑種文化論」の成立について」という論文は、本研究にすこぶる寄与する論文だった。 第二は、東北アジアの近代化を考える場合に、日本の近代化のなかで、際立って華々しい実績を残している建築の分野は重要な示唆を与える。そこで建築家隈健吾氏を「加藤周一記念講演会」の講師に招聘し、隈研吾氏が加藤をはじめ戦後思想をどのように建築の世界に活かしたかという主題で講演した。この講演は研究の社会的発信であるとともに、本研究計画の核心に迫る講演であり、示唆に富むものであった。 第三は、東京女子大学の丸山眞男記念比較思想研究センターとの研究提携の第4弾として「知識人の自己形成――丸山眞男・加藤周一の生誕から敗戦まで」という主題の共同企画展示を両大学で行った。戦後日本思想を代表する思想家である丸山と加藤の自己形成を通して、戦後日本思想がいかなるものであったかを分析する試みである。この試みは、加藤の自伝的小説である『羊の歌』を市民とともに精読する作業と連携する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画「東北アジアにおける戦後日本思想」といった大きな研究を主題とするためには、東北アジア各国(中国、韓国)の日本研究者と、東北アジアに関心をもつ日本の戦後思想研究者との共同作業が不可欠である。ところが、コロナ禍のなかの右往左往があり、直接に意思疎通を図ることができなくなり、おのずと国際的共同研究に対する求心力が維持できなかった。ひとえに研究者代表の鷲巣の力量不足だと反省している。そういう状況にあって各国の研究者が自分の個人研究に戻っていくのは当然の結果だったと考える。国際共同研究のむつかしさを実感させられたのだが、遅れの主たる要因はおおよそこういうことであったと考えている。 しかし、それ以外の理由がなかったわけではない。副次的理由としては、本研究計画の母体である立命館大学加藤周一現代思想研究センターには、本研究計画の主力メンバーが多く属している。加藤研究センターのメンバーは、本研究計画を遂行するとともに、加藤周一文庫の整備拡充という任務も負っている。研究センターの任務には加藤周一文庫が持つ「加藤周一手稿ノートのデジタルアーカイブ構築」が含まれており、このデジタルアーカイブ構築作業は、本研究計画の基礎作業となるものであり不可欠の作業であると同時に、もう一方で外部の業者との共同作業で進められている。そのために否応なしに納期があり、待ったなしで任務遂行を求められることはやむを得ないことである。この作業にとられる時間と労力が予想外に大きかったことも影響している。人員と資金が潤沢に用意されていれば解決できる問題ではあろうが、さりとて誰にでもできるという作業ではなく、限られた人材のなかで進めている作業であり、なかなか望み通りにはいかない状況があって、本研究計画にも少なからず影響を与えたと言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」の欄で述べたように、2021年度の研究は当初の予定が完遂できていない。そのひとつの理由である財政事情の逼迫を解消するために、加藤周一現代思想研究センターが主体となって「クラウドファンディング」を募集することとした。これはすでに4月27日に公開し、クラウドファンディングが成立する最低限の目標値を超えることができた。このことは研究環境を整えるという基本的条件の点で有効に作用するものと判断する。研究者の拡充という点も考えていかないとならない。とくに戦後日本思想を研究主題に据える中国人研究者、韓国人研究者に本研究計画に参加してもらうことが必要であると考えている。すでに関西国際大学の劉争氏(『「例外」の思想――戦後知識人・加藤周一の思想』を2021年に刊行している)に研究会への参加を承諾してもらった。韓国人研究者にも目下参加を呼び掛けているところである。 今年は本研究計画の研究対象の一人である鶴見俊輔の生誕百年に当たる。これを契機に、東京大学の東アジア藝文学院と立命館大学の間で共同研究会を開くことで合意し、現在その準備を進めている。鶴見の活動範囲は広く、しかもアカデミーの人ではないことも理由のひとつであるが、学問的な研究対象になり難い面をもつ。この共同研究によって、本研究計画を進捗させると同時に、学界にも一石を投じたい。東京女子大学の丸山眞男記念比較思想研究センターとの研究提携は次年度も続行し、今年度に引き続いて「知識人の自己形成――丸山・加藤の場合」第2部を共同企画展示として進めることで合意し、すでに準備段階に入っている。さらに本研究計画を社会的に広めていく作業の一環として「加藤周一文庫公開講読会」を2019年以来続けてきたが、2022年度も続行してゆく。この公開講読会は回を追うごとに参加者が増えており、その点では市民によって支持された活動だと認識する。
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