2020 Fiscal Year Annual Research Report
松方コレクション来歴研究とデジタル・カタログ・レゾネ試作
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20H01213
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Research Institution | The National Museum of Western Art, Tokyo |
Principal Investigator |
川口 雅子 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (70392561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
馬渕 明子 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, その他部局等, 館長 (30114656)
陳岡 めぐみ 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 主任研究員 (50409702)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 松方コレクション / 松方幸次郎 / コレクション形成史 / 来歴研究 / カタログ・レゾネ / アート・ドキュメンテーション / アーカイヴ / 西洋美術史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、松方コレクション全容解明に取り組んできた申請者らのこれまでの研究を推し進め、松方コレクションのカタログ・レゾネである『松方コレクション 西洋美術全作品』全2巻(国立西洋美術館、平凡社、2018-2019年)刊行時点で未解明のまま残された問題を中心に、松方コレクション成立経緯とその後の行方を明らかにしようとするものである。国立西洋美術館が所蔵する松方旧蔵品はごく一部であり、松方コレクションの西洋美術作品の大部分は現在散逸しており、その全容解明にはコレクション形成および散逸経緯の追跡調査が必要である。また明治期以降早くから日本にもたらされていた西洋美術作品のなかには、戦後、美術市場において故意に松方コレクションと偽られた作品もあり、本研究では作品所蔵先での現地調査及び国内外の資料所蔵機関における資料調査を通じて、これらの事実関係を解きほぐす必要がある。こうした調査と並行して、冊子体の『松方コレクション 西洋美術全作品』を応用し、研究の進展による持続的な改訂を可能にする手段として、デジタル・カタログ・レゾネのプロトタイプを作成し、そこに従来日本のカタログでは看過されてきた来歴データを位置づけることを計画しており、これにより、日本の学術出版の手段としてのデジタル・カタログ・レゾネの有効性を検証しようとするものである。 以上を踏まえ、当該年度においては、『松方コレクション 西洋美術全作品』刊行後に得られた新たな情報のなかから、第2巻収録の白黒の資料写真(フランスの建築文化財メディアテークより入手)がきっかけで現所在が判明した松方コレクション推定作品について、現在の所蔵先である姫路市立美術館の協力を得て現地調査を行った。本作品に関連する文献研究の成果については『姫路市立美術館研究紀要』に研究報告を行っている(陳岡めぐみ「失われた松方コレクションのマティスの行方」)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、2016-2019年度の科学研究費「在外松方コレクション資料の学術調査と美術品来歴研究」(16H05668)で未解明のまま残された問題を中心に、ヨーロッパを始めとする国内外の研究者とのネットワークを構築しながら、情報収集に努め、作品および関連資料の所在把握を行い、さらに世界各地の美術館、個人コレクター宅、画商、美術研究所、文書館(アーカイヴ)、図書館等を訪問し、作品の現地調査を行うとともに、ヨーロッパや米国・日本各地の文書館、図書館、美術史研究所、画商アーカイヴ、関係者遺族の手元に保管されている作品売買の記録や展示記録等の資料調査を進めていく計画である。しかしながら、コロナ禍により国内外への移動が制限されることとなり、とりわけ海外調査を見送らざるを得ない状況が続いており、海外での作品調査・資料収集を計画通りに行うことが困難になっている。 一方、本研究計画のもう一つの柱であるデジタル・カタログ・レゾネのプロトタイプ試作に関しては、僅かではあるが以下の進展があった。国立西洋美術館は松方コレクション研究によって得られた知見を総合し、蓄積するプラットフォームとして、これまで所蔵作品管理システムを応用した作業用簡易システムを作成し使用してきている。この2つのシステムは不可分の関係にあるが、本研究ではこの両者を土台として、内外研究者がデジタル・カタログ・レゾネとして利活用するための検索機能とインターフェースを実装し、外部公開に向けて体裁を整える計画であり、その一環としてデータ管理機能やインターフェース改修等のプラットフォーム強化を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
先送りとなっているヨーロッパ・北米での作品調査および資料調査に関しては、今後もコロナ禍の状況を注視しつつ、現地訪問の機会を探っていく予定である。その一方、国内美術館や図書館・研究所での調査に関しては、移動制限が緩和されつつある現在の状況が許す限り、前向きに検討していく予定である。 このように限られた条件下ではあるものの、実施することのできた国内の美術館や図書館・研究機関での調査、あるいは現地への調査によらず相手機関の協力によりメール・郵送等の手段で収集することのできた作品付随資料の写し(裏面ラベルの写真記録等)やアーカイヴ資料の写し(手紙、日誌、作品売買記録、所蔵品台帳、画廊ラベル、写真記録等)、ドキュメンテーション資料の写し(新聞・雑誌記事、展覧会カタログ等)については、今後も継続して松方コレクション研究資料アーカイヴとして地道な整理作業に取り組み、外部からのアクセスと利便性について検討していく予定である。 デジタル・カタログ・レゾネのプロトタイプ構築に向けては、先行するウィルデンスタイン・プラットナー研究所の事例やポール・セザンヌの先端的デジタル・カタログ・レゾネをはじめとする最新動向の把握と反映に努め、それと同時に基盤となるデータ管理システムの追加改修・開発などに取り組んでいく。 本研究においてはもとより研究組織は固定せず、必要に応じて柔軟に改変し、また内外研究者に随時協力を打診していく計画であるが、今後も若手研究者らの協力依頼を積極的に行うと同時に次世代研究者の育成も図っていく予定である。
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