2021 Fiscal Year Annual Research Report
Construction and Application of a Multilingual Corpus for the Studies of Post-Documentary Arts
Project/Area Number |
20H01217
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
桂 英史 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (60204450)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桐山 孝司 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (10234402)
布山 毅 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (10336654)
西條 朋行 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 講師 (50373014)
高山 明 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (60748333)
畠山 直哉 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 教授 (60817641)
和田 信太郎 東京藝術大学, 大学院映像研究科, 助教 (80648353)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | ポストドキュメンタリー / エッセイフィルム / 自己言及性 / 音声コーパス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、現代アートの分野では、表現の媒体として映像が多くの作品で用いられている。とりわけ、「エッセイフィルム」と呼ばれる分野が改めて評価されつつある。自己反省的で自己言及的なドキュメンタリー映画を、改めて「エッセイフィルム」と呼ぶようになってきている。アンドレ・バザンが1958年に、クリス・マルケルの『シベリアからの手紙』(1958年)をエッセイ形式で分析したことにちなんで、「エッセイフィルム」と呼ばれている。自己反省的で自己言及的なドキュメンタリー映画であるエッセイフィルムを、言語、とりわけ話者の発話に注目して、エッセイフィルムの自己言及性を探究し、メディア表現における音声(インタビュー、ナレーション、朗読、音楽、音効など)に、言語表象の同時性の動的な構造として「啓蒙」や「教化」の役割があることを明らかにしようとするのが、本研究の核心的なテーマである。本年度は、そのテーマに近づくために、昨年度に続き音声コーパス化の予備調査とデータ収集から解析のノウハウを確立することを図った。 とりわけ、今年度は話者2名(インタビュー映像と対面朗読)による対話音声を収録した、簡易な音声コーパスを構築している。音声コーパス構築のための対面での作業やディスカッションをリモートでのトークやミーティング等で補い、音声データの分類、編纂方法について調査・検討を進め、多くの研究協力者を得ることができ、て音声の持つ「啓蒙」と「教化」を確認し、そこからポストドキュメンタリーのあり方への可能性を見ようとする、芸術実践としての方法論やパースペクティヴが充分に発揮されている。最終年度に向けて包括性の高い成果に結びつけることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においてポストドキュメンタリー作品として位置づけている、12作品(総時間数約107時間)を対象に、作品のナレーションや字幕により収集した情報に基づき、長めの対話150種類と4ターンで終わる短い対話720種類で、音声データとして合計で約24時間分のデータコレクションを作成した。過去に発表された映像作品、パフォーマンス作品の音声データを数人のアーティストとアーティスト・コレクティヴより寄贈を受け収集し、インタビュー等の筆耕を行い、その筆耕のデータは一部形態素解析を行って、分類、編纂方法について調査・検討を進めた。そのデータコレクションでは、話者ごとに発話単位で分割している。このデータコレクションでは、あいづちを打つなど、 指定された感情で対話相手に共感するように発話された意図的なデータ編集は採用していない。 なお、本研究で構築しようとしている音声コーパスは、検索したい単語や句(検索語)を同定するために用いられる音声認識システムの辞書作成をめざすものではない。本研究で構築する音声コーパスは、 あくまでエッセイフィルムの自己言及性やメディア表現の「啓蒙」と「教化」を探究するために用いられる。地域や分野を横断して表現されるポストドキュメンタリーのあり方を、エッセイフィルムやメタフィクションといった作品形態の視点のみならず、音声コーパスの構築を通じて映像作品を評価することにより、その言語表象の同時性の動的な構造を解明するとともに、その音声コーパスを用いたインターメディアの芸術実践を行うことにある。本研究成果は、2022年7月刊行予定の研究代表者による自著である『メディアエコロジー: 端末市民のゆくえ』(左右社)の各論考に反映されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年である今年度は、具体的には、データの分類、編纂についての事例を参照しつつ、映像資料の音声コーパス化をさらに進める。音声コーパスの構築を進めるだけでなく、クラウド上に音声コーパスを編集・共有する方法について検討し実装する。さらに稼働する高精度・高速・低資源のソーシャルメディア型音声コーパス構築システムの研究開発を推進する。また、本研究のプロセスで明らかになった、著作物をもちいた「朗読」の著作権上の諸問題、たとえば小説などの著作物を朗読することをオンラインで配信する、あるいは映像で表現するといった場合は、著作権法としては「公衆送信権」(法23条1項)や「複製権」(法21条)に抵触している問題、とりわけ公衆送信の場合は、口述と異なり、無償利用時に許諾不要となるような例外規定がないことについても、著作権法の条文上、「口述」の定義から、「公衆送信」の場合が除外されている点(法2条7項)について、法律の専門家と研究会やカンファレンスを開催し、その成果については、ウェブやブックレットの形で公開する。 最終的には、いずれも視覚優位のグローバルな支配言語としての映像に対する抵抗と葛藤のあり方として音声の持つ「啓蒙」と「教化」をテーマとした映像作品を製作する。「啓蒙」と「教化」に焦点をあてた現地調査や対面調査(リモートを含む)を進めるとともに、内的モノローグ 、意識の流れなどを音声コーパスからエッセイフィルムのナレーションを構成する。共同研究者や研究協力者との連携をより密接に取り合いながら、フィクションとノンフィクションの境界線を曖昧にする、自己反省的で自己言及的なドキュメンタリー作品の製作を行い、年度末までに公開する予定である。
|
Research Products
(1 results)