2021 Fiscal Year Annual Research Report
古代東アジア王権中枢の木材利用体系に関する総合的研究
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20H01360
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Research Institution | Kashihara Archaeological Institute , Nara prefecture |
Principal Investigator |
鈴木 裕明 奈良県立橿原考古学研究所, 調査部調査課, 課長 (90260372)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青柳 泰介 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部学芸課, 係長 (60270774)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 木材利用体系 / 木製品消費地 / 刳物腰掛 / 木製樹物 / 木材生産地 / 木製残材 / 古墳時代王権中枢 |
Outline of Annual Research Achievements |
古墳時代前期~中期の王権中枢の木材利用体系の成り立ちと展開を明らかにするため、令和3年度は主に下記の調査を実施した。 ●形状・木取り・樹種等が資料化された古墳時代前期~中期の奈良盆地及び周辺の集落遺跡・古墳出土木製品と比較検討する対象資料の調査。⇒刳物腰掛を対象として、弥生時代後期末~古墳時代前期初頭の島根県出雲市姫原西遺跡例・山持遺跡例と弥生時代後期の石川県小松市八日市地方遺跡例に対しそれぞれ熟覧調査を行った。また古墳時代前期初頭~前半の奈良県桜井市纒向遺跡にみられる団扇形木製品、精製高杯の成り立ちを考える上で重要な関連資料として姫原西遺跡例等の熟覧調査を行った。これらの観察所見をもとに一部研究成果を発表した。さらに昨年度に引き続いて古墳時代中期前半~中頃の滋賀県栗東市椿山古墳出土笠形木製品を対象として三次元レーザー計測を実施し、3D実測図作成とともに年輪曲線を図化した。この調査により出土している5点全てを資料化することができた。改めて古墳時代中期前半の大阪府羽曳野市誉田御廟山古墳例との強い関連性を確認することができた。 ●古墳時代の奈良盆地および周辺の集落遺跡出土製材・加工時残材の調査⇒古墳時代中期の御所市南郷大東遺跡の導水施設の柱材とともに出土している木屑の観察と分類、樹種同定、古墳時代後期後半~飛鳥時代の滋賀県大津市南滋賀遺跡・滋賀里遺跡の大壁住居および掘立柱建物の柱材と木屑の観察および樹種同定をそれぞれ実施した。また、古墳時代以降の王権中枢の木材生産の継続性・変化を探るため、奈良時代の奈良県山添村毛原廃寺出土木製品・残材の形状・木取り・加工痕等の調査を実施した。 ●出土木製品集成⇒当該研究における分析対象資料の検討と木製品研究の基礎データとするために奈良県下において2005年度調査まで完成している遺跡出土木製品集成データベースを追加更新する集成作業を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古墳時代王権中枢の木材利用体系の成り立ちと展開の研究にかかる木製品消費地からの検討資料として刳物腰掛、団扇形木製品、装飾高杯等を取り上げ、その比較検討の対象資料として、琵琶湖湖南、北陸、山陰、北部九州に展開する事例の把握をさらに進めた。そのなかで今年度の研究計画に基づいて、刳物腰掛、団扇形木製品については、山陰・北陸の資料の熟覧調査を行い、形状・木取りの資料化を行うことができた。装飾高杯については山陰の資料の熟覧調査を行い、同様の成果を得ることができた。さらに当初計画に追加する形で、琵琶湖湖南の資料として栗東市古墳時代前期初頭の集落遺跡である小柿遺跡から出土している大型建築部材、刳物腰掛、刳物脚付槽・盤の熟覧調査を実施し、形状・木取りの把握とともに樹種同定を実施した。これらの成果についての考察も順調に進めている。三次元レーザー計測による古墳出土コウヤマキ製木製樹物(笠形木製品)の形状・木取りの比較検討では、すでに資料化されている古墳時代中期~後期の奈良盆地・河内平野の古墳出土例に対して、王権中枢周辺の琵琶湖湖南の資料を中心に資料化し、比較検討を進展させている。特に令和3年度は当初計画通り滋賀県栗東市椿山古墳出土笠形木製品2点の資料化を行い、出土している5点すべての調査を完了させた。この比較検討の内容についても考察を進めている。 木材生産地からの検討では、資料化した奈良盆地東山間部木材生産遺跡の木製残材との比較検討の対象資料として、王権中枢の大阪市野崎町所在集落遺跡出土木製製品・残材、琵琶湖湖南の大津市南滋賀遺跡・滋賀里遺跡の出土木製残材の形状把握、分類、樹種同定等の調査を計画通りに実施した。この成果の一部についても令和3年度に公表することができた。 奈良県下の遺跡出土木製品の集成作業については、作業2年目の本年度は概ね80%程度のデータ入力を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
古墳時代王権中枢の木製品消費地の集落遺跡出土木製品について、引き続き刳物腰掛、団扇形木製品、装飾高杯などの精巧な木製品を題材に、その成り立ちにおける弥生時代~古墳時代前期初頭の西日本各地域からの影響を検討する。その検討材料の資料化にあたって、形状・木取りの把握を目的とした熟覧調査を実施する計画である。古墳出土木製品については、古墳時代王権中枢資料の更なる補填ために、三次元レーザー計測による奈良盆地の古墳出土コウヤマキ製木製樹物の形状・木取りの資料化作業を実施する。令和4年度には橿原市四条古墳群出土木製樹物等を対象とする。 古墳時代王権中枢に木材・製品を供給したとみられる奈良盆地東山間部の生産遺跡については、奈良市大柳生遺跡群から出土している製材・加工時残材や製品の形状・木取りの把握と分類、樹種同定などの調査を行い、資料化する。これらの資料を令和3年度に実施した古墳時代の大阪平野や琵琶湖湖南の残材資料と比較検討する。またさらに範囲を広げ、北部九州~北陸の日本海側の古墳時代木材生産地の資料の把握に努める。その上で古墳時代王権中枢の生産地から消費地への木材利用体系の形成過程に関する考察を進展させる。 令和4年度には、中国及び韓国における古代王権中枢と周辺の消費地の木製品の形状・樹種・木取り・年輪曲線・加工痕等の資料化を行うため、中国及び韓国の当該研究協力機関と連携して中国陝西省・寧夏回族自治区、韓国全羅南道等で資料調査を実施する予定である。ただし現状では新型コロナウィルス感染症流行により渡航の目途がたたず、調査の可否について下半期までに判断する。仮に渡航不可となった場合、国内から中国・韓国の協力機関と調査の今後の見通しについてメール連絡やリモートでの打ち合わせを行い、あわせて最新の古代中国・韓国の木材利用に関する研究状況の把握や資料の収集につとめ、その内容について精査する。
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Research Products
(6 results)