2020 Fiscal Year Annual Research Report
ソフトローの機能の多様性を踏まえた企業統治・企業買収におけるその活用の在り方
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20H01436
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 貴仁 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (30334296)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
後藤 元 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (60361458)
岡本 暢子 (松元暢子) 学習院大学, 法学部, 教授 (60507804)
松井 智予 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (70313062)
飯田 秀総 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (80436500)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 企業統治 / 企業買収 / ソフトロー / コーポレートガバナンス / ハードロー |
Outline of Annual Research Achievements |
企業統治班は、令和元年会社法改正と親子上場制度を題材として、ソフトローがハードローの形成に与える影響及びソフトローとハードローの役割分担を分析した。令和元年会社法改正によって会社補償とD&O保険が導入されたが、このような改正の原動力の1つは経済産業省によるガイドラインの作成であった。新たに導入された会社補償とD&O保険に関する規律について、その意義と解釈上問題となりうる点を分析し、特にD&O保険の弊害への対処に関しては、会社法による規制は限定的なものにとどまっており、保険会社による保険契約の内容のコントロールと会社によるその開示に委ねられる部分が大きいことを明らかにした。親子上場については、近年では親子上場ができる仕組み自体を廃止すべきだという論調の議論も見られるところ、本研究では、こうした結論に至るために最低限検討すべき論点を整理した上で、親子上場に伴う子会社少数株主搾取の問題を、法制度の改善といった、親子上場制度を廃止する方法以外の方法で緩和する可能性について検討した。 企業買収班は、ソフトローが司法判断の形成に与える影響等を分析した。特に、企業買収に関するソフトローにおいて、支配権の変動の是非については、対象会社の企業価値を向上させるかどうかという視点で評価すべきこと、および、対象会社の企業価値を向上させるか棄損させるかについては株主の判断を重視するべきことという考え方が定着してきたことを前提に、支配権の変動に関する株主意思を重視する視点から、公開買付けの強圧性への対処方法としての買収防衛策の導入について検討した。強圧性については金商法の公開買付規制を改正することで適切なルールを作り出すというハードローアプローチもあるが、本研究では、ソフトローをベースに裁判所による法の適用を中心にするアプローチの可能性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、研究実施計画を策定する段階で新型コロナウィルス感染症の拡大を収束させるため緊急事態宣言が発令されていたため、資料収集と整理を中心とすることが予定されていた。緊急事態宣言の発令等に伴う様々な制約(研究室や図書館の利用制限)は存在したが、企業統治班と企業買収班は利用可能な研究資源を活用してソフトロー(ガイドライン)とハードローの相互関係を対象とする研究を継続し、2020年度中に複数の研究業績を公表できた。 研究実施計画の策定段階では夏頃に新型コロナウィルス感染症が終息することを想定し、研究分担者である飯田が長期海外出張を行う機会を活用して、本研究の遂行に必要な資料収集をアメリカにおいて行うことを予定していた。しかし、新型コロナウィルス感染症は終息の兆しをみせず、飯田の長期海外出張は中止となった。しかし、日本におけるソフトロー(ガイドライン)とハードローの相互関係を客観的に分析するためには、諸外国との比較法分析は必須である。そのため、研究分担者が各自でデータベースを活用し、関連する諸外国の資料収集と整理を進めることにした。 新型コロナウィルス感染症の拡大は、それ以前から進みつつあったESGやSDGsをコーポレートガバナンスに組み込む動きを加速化している。日本では、この分野においてもソフトロー(ガイドライン)が先行している。したがって、本研究の目的を達成するためには、このような動き研究対象に取り込むことが望ましい。2020年度には、2021年度以降の本格的な研究の準備作業として、ESGやSDGsがソフトロー(ガイドライン)並びにハードローに与える影響を対象とした研究を開始することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症の終息が見通せない中、少なくとも2021年度は、企業統治班と企業買収班による個別的な資料収集と整理を中心とせざるをえない。ただし、以下のとおり、2020年度の研究計画を実施する中で本研究の対象とすべき新たな問題や重点的な検討対象とすべき問題が明らかになっており、資料収集と整理に研究資源を積極的に投下する必要が認められる。 企業統治班による調査に関しては、2020年3月24日のスチュワードシップ・コードの改訂及び2021年に改訂が予定されるコーポレートガバナンス・コードにおいてコーポレートガバナンスにおけるESG 及びSDGsの重要性が確認されており、これらがESG 及びSDGsに関する上場会社及び機関投資家の行動与える影響を分析対象に加える予定である。 企業買収班による調査に関しては、アクティビスト株主と上場会社の対立が予想を上回る頻度で生じており、幾つかの裁判例が公表されるに至っている。ソフトローとハードローの組み合わせからなる敵対的企業買収防衛策に関する法制度の再検証の準備作業として、裁判例の検討にとどまらず、株主と会社の間でなされる折衝の内容をIR資料や代理人弁護士への照会等を通じて把握することに努める。 2021年度も新型コロナウィルス感染症の拡大によって研究活動に種々の制約が課されることを見越し、オンラインでアクセス可能なデータベースを積極的に購入し、研究活動を継続できる状態を確保する予定である。
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Research Products
(12 results)