2022 Fiscal Year Annual Research Report
Empirical Study on Risk Management in Enterprise Information Systems Development Project
Project/Area Number |
20H01547
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
横田 明紀 立命館大学, 経営学部, 教授 (30442015)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 賢一 東北大学, 経済学研究科, 教授 (30262306)
市東 亘 西南学院大学, 経済学部, 准教授 (20320252)
黄 テイテイ 武庫川女子大学, 経営学部, 講師 (40815552)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リスクマネジメント / 企業情報システム / 開発プロジェクト / リスク要因 / ロジスティックス回帰分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
企業情報システムの開発において、リスク管理をベンダー企業とユーザ企業とで区分した研究は少ない。本研究ではベンダー企業の視点から情報システム開発において計画段階で見積もられたリスク要因に関する評価に基づき、計画工数と実績工数との差異(工数比)および計画工期と実績工期との差異(工期比)に対して影響を有するリスク要因の特定をロジスティックス回帰分析より明らかにした。まず工数比に対して有意なリスク要因のとして「ユーザ企業への提案能力」「過去の類似プロジェクトの有無」「システム移行に対するベンダー企業の責任」「ベンダーの要件定義能力」「要員の調達」の5つが確認された。これらのリスク要因に対して計画段階でリスクが高く評価されていた場合、「システム移行に対するベンダー企業の責任」は実績工数が計画工数を超過することを抑制する要因となっている一方で、他の「ユーザ企業への提案能力」「過去の類似プロジェクトの有無」「ベンダーの要件定義能力」「要員の調達」は実績工数が計画工数を超過する傾向が高くなる要因となっていることが確認された。また、工期比に対して有意なリスク要因のとして「遅延による顧客への影響度」「プロジェクトマネージャーの経験」の2つが確認された。同様にこれらのリスク要因に対して計画段階でリスクが高く評価されていた場合、「遅延による顧客への影響度」は実績工期が計画工期を超過することを抑制する要因となっている一方で、「プロジェクトマネージャーの経験」は実績工期が計画工期を超過する傾向が高くなる要因となっていることが確認された。 この分析の結果は、ベンダー企業が重視すべきリスク要因と、かつ、そうした重視すべきリスク要因に対し対応が容易なものと、困難なものが存在することを示唆している。これらの研究結果は論文としてまとめ、現在、国際ジャーナルでの査読審査を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は多くのシステム開発プロジェクトにおいて計画工数と実績工数が一致していない事象を起点とし、その原因としての「潜在的なリスク要因」および「潜在的なリスク要因に対するプロジェクトの現場の反応」を探究する為、全研究期間(4ヶ年)を通じて(1)事象の把握、(2)潜在的なリスク要因の特定、(3)リスクへの反応の分析、(4)可視化の4点を、順次、実施することを計画している。これまで(2)での潜在的なリスク要因の特定について、潜在クラス回帰分析やロジスティックス回帰分析などを試み、学会発表や論文を執筆し、現在、国際ジャーナルに投稿、査読中となっている。 しかしながら、計量分析においてはパラメータの僅かな取り方の変化により分析結果が安定しない課題がなお残っている。また、現在は(3)でのリスクへの反応の分析へ研究を進めつつあるが、新型コロナウイルスの感染拡大により対面による調査企業への出張調査が予定通りに実施できなかったことや、研究代表者が学内での役職を担うこととなったことにより十分にエフォートが割けなかったことから、調査企業との十分な調整や確認作業が進まない状況が続いた。そのため、(2)でのリスク要因の特定を踏まえた特徴的なプロジェクトへの聞き取りを通じた定性的な考察などが実施できていない。これらについては、今後、調査企業との打合せを継続的かつ綿密に実施しながら、可能な限り迅速に研究スケジュールの回復を試みたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
システム開発プロジェクトの開始前に見積もられた計画工数や計画工期と、プロジェクト完了時に実際に費やされた実績工数や実績工期との差異に対し、計画段階で予見されたリスク要因の評価との因果関係を把握するために、様々な計量分析の手法を用いた解明を試みているが、なおパラメータの僅かな取り方の変化により分析結果が安定しない課題が解消できずに残っている。この課題に対し、2023年1月に調査企業よりこれまで受け取っていたシステム開発プロジェクトデータ以降に実施されたプロジェクトに関する追加データの提供を受けた。これにより、分析対象となるプロジェクト数を増やし、最適な分析モデルの精査を継続する。 さらに、(3)リスクへの反応の分析では計画段階での見直しが繰り返し行われるプロジェクトの推定や、(2)でのリスク要因の特定を踏まえ、特徴的なプロジェクトを抽出し、各プロジェクトのプロジェクトマネージャへの聞き取りを通じた定性的な考察をおこなう。こうした定性分析には現場での対面調査が必要であり、これまでコロナ禍の為、調査企業への出張調査が予定通りに実施できなかったが、状況が落ち着いてきたこと、また、これまで手がけてきた潜在クラス回帰分析やロジスティックス回帰分析により実績工数や実績工期との差異に影響を与える特定のリスク要因が見てきたことから、早急に調査対象となるプロジェクトを絞る。 こうした定量分析と定性分析を踏まえ(4)可視化ではリスク発生の不確実性と、リスク因子の相互作用によってもたらされるアクティビティとの因果関係を、条件付き確率によって計量し、ネットワークによりグラフィカルに表現する「ベイジアンネットワーク」に基づく分析手法を用いた分析を試みる。これらの作業と並行し、これまでの研究成果の公表を目的とした論文や報告書の執筆作業も進める。
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