2022 Fiscal Year Annual Research Report
原発事故被災者の移住・帰還・避難継続における新たな居住福祉に関する人間科学的研究
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20H01603
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
辻内 琢也 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00367088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
扇原 淳 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20329072)
桂川 泰典 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (20613863)
金 智慧 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (20883705)
多賀 努 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (40415500)
増田 和高 武庫川女子大学短期大学部, 心理・人間関係学科, 准教授 (40596962)
岩垣 穂大 金城学院大学, 人間科学部, 講師 (40882642)
平田 修三 仙台青葉学院短期大学, こども学科, 准教授(移行) (50888683)
日高 友郎 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (70644110)
小島 隆矢 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (90292888)
明戸 隆浩 大阪公立大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (90817230)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 原発事故 / 被災者 / 移住 / 居住福祉 / 人間科学 / 差別 / 国内避難民 / PTSD |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年現在、原発事故に被災した住民達は「帰還か移住か避難継続か」の選択を迫られている。政府は福島への帰還を優遇する政策を打ち出しており、移住や避難を継続させたいと考えている世帯への支援は打ち切られてきた。原発事故による居住差別や居住弱者を出さないためにも、居住の公共的保護を重視する「居住福祉」的観点からの調査研究が重要となる。(1)2022年1―4月に実施された大規模アンケート調査では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の可能性がある者が37.0%いることが明らかになり、2015年以降継続して約4割の原発事故被災者が高いストレス状態で生活していることが明らかにされた。多変量解析の結果、ストレスに関連する3大要因、補償・賠償問題への心配(OR:13.0),現在の失業(OR:6.35),避難者としてのいやな経験(OR:5.86)が明らかになった。 (2)この調査結果をもとに、2023年3月7日に復興庁・厚生労働省等の関係省庁に対して『引き続く原発避難者の苦難を直視した継続的かつ実効的支援を求める要望書』を提出し、同時に記者会見もおこなった。 (3)朝日新聞(2023年3月24日)に研究成果が紹介された。 (3)研究成果物としての書籍を出版。辻内琢也/トム・ギル(編著)『福島原発事故被災者 苦難と希望の人類学―分断と対立を乗り越えるために』(明石書店,2022)。ネット書評「じんぶん堂」10月26日に掲載。島薗進(東京大学名誉教授・上智大学グリーフケア研究所)「原発災害が生み出した分断の深みと、それを越えていく歩みを描く」 (4)出版記念国際シンポジウム:復興の人間科学2022『Anthropology of Tribulation and Hope from FUKUSHIMA』を開催した。米国コルゲート大学教養部客員准教授アレキサンドル・スクリャール氏を招聘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
科研メンバーを中心に、早稲田大学災害復興医療人類学研究所(WIMA)研究員・招聘研究員、および各研究室所属学生による研究報告とディスカッションを行った。①4月;五井野龍了(辻内研修士)「震災支援ネットワーク埼玉SSN/WIMA原発避難者調査報告(第2報)」②5月;平田修三「分断と対立を乗り越えるために―当時小学生だった若者達との対話から」③6月;森松明希子(招聘研究員)「避難する権利、被ばくからの自由」④7月;堀川直子(招聘研究員)「日常の苦境、模索する希望―『強制避難』単身女性たちの暮らし」⑤8月;辻内琢也「分断と対立の根底にある問題群―苦難と希望の人類学へ向けて」⑥9月;プレシンポジウム(明治学院大学教授/トム・ギル、コルゲート大学准教授/アレクサンドル・スクリャール、フランス国立科学研究センター教授/セシル・ブリス)⑦11月;五十嵐彩夏(桂川研修士)「フクシマの子どもたちへの家族に関する質的研究」⑧12月;遠藤凌佑(辻内研学生)「福島原発事故後の山形県における避難者行動および避難者支援策」,高村柚奈(辻内研学生)「茨城県における東日本大震災および福島原発事故の対応と報道の課題―低認知被災地と茨城県」⑨2023年1月;越沼愛美(辻内研学生)「福島県喜多方市における東日本大震災から現在も続く問題や被害に関する研究」,原田光汰(辻内研学生)「復興五輪による福島県産物への風評被害払拭の効果―福島県産の桃への影響」⑩2月;猪股正(招聘研究員)・辻内琢也「2022年アンケート調査結果をもとにした復興庁等行政への要望書/記者会見報告内容の検討」⑪2月;長澤涼人(一橋大学社会学研究科・宮地尚子研修士)「原発避難者の沈黙からの解放―原発体験の思想化プロセスの考察」⑫3月;辻内琢也「2022年アンケート調査結果をもとにした復興庁・厚生労働省等への要望書の解説」
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Strategy for Future Research Activity |
(1)科研メンバーを中心に、早稲田大学災害復興医療人類学研究所(WIMA)研究員・招聘研究員、および各研究室所属学生による研究報告とディスカッションを行う定例研究会議を月1回継続させていく。 (2)フランス国立科学研究センターMITATEラボとの共同シンポジウムを開催予定。 2023年11月18日(土曜日)早稲田大学大隈記念講堂小講堂『福島原発事故12年の経験から学ぶ―当時小学生だった被災当事者との対話から(第2回)』 2023年11月19日(日曜日)早稲田大学大隈記念講堂大講堂『フクシマの“いま”を知る:自然科学と人文社会科学との対話から、教育を軸に考える』 (3)2021年度に実施した大規模アンケート調査のデータをもとに、英文和文諸雑誌への投稿論文を準備する。 (4)国連人権理事会および国連人道問題調整事務所(OCHA)は、人間の安全保障の観点から我が国のすべての原発事故避難者、すなわち避難指示区域内からのいわゆる「強制避難者」も、区域外からのいわゆる「自主避難者」も、区別なく「国内避難民(Internal Displaced Peoples:IDPs)」と位置づけており、日本政府に対して、原発事故被災者における様々な領域に認められる人権侵害に警鐘を鳴らしている。本研究班が明らかにしているように、原発事故被害は12年を経過してなお継続しており、約52%の人びとが健康状態が悪化し、約44%が経済状況が悪化し、約17%が失業中であり、約45%が住宅支援の打切りに困っており、約23%が賠償・補償の請求が一部しかできておらず、約40%が孤独感・孤立感を感じており、約48%が避難者であることによっていやな経験をしておることが判明した。本研究課題は今年度が最後の1年となる。これらの継続課題を研究するために次の科研費獲得に向けた企画を練っていきたい。
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Research Products
(24 results)