2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H01906
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
筒井 泉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別准教授 (10262106)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
李 宰河 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20816607)
田窪 洋介 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (50423124)
長谷川 祐司 北海道大学, 工学研究院, 教授 (60282498)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 弱測定 / 弱値 / Bell不等式 / 量子測定誤差 / CPの破れ / B中間子 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度における研究実績は次の4つにまとめられる。 1)弱測定による精密測定の方法を、B中間子の崩壊現象を通したCPの破れの測定に適用可能かどうかの検証を行い、一定の条件の下で、それが可能であることを示した。その条件とは、弱測定における対象系の終状態の選択(事後選択)を実施できることであるが、例えばK中間子に崩壊するモードを利用することで、原則的には実施可能である。さらにその場合には、具体的にKEKのBelle II 実験におけるCPの破れの測定精度を向上させることが可能であることを、数値計算に基づいて明らかにした。 2)一般にB中間子のような粒子の崩壊現象がある場合に事後選択を行うと、標準的な崩壊時間(寿命)が変化し、選択によって時間を遅延させて長寿命にすることが可能になる。それがどの程度可能かについて、一般の2状態系(B中間子やK中間子系はこれに含まれる)の場合を検討し、最大3.5倍程度にまで遅延可能であることを明らかにした。 3)一般にBell不等式の検証実験は、自然界の(非)局所実在性を検証する上で極めて重要であり、従来は主として光子を用いた光学系で行われてきた。これを高エネルギー領域でも実施し、有意な結果を得るための一般的な考察を行うとともに、具体的にCERNのATLAS実験(LHC Run 3)にて実施した際の有効性を考察した。その結果、従来(Bell実験等)の非光学系での検証実験で見られた局所性の抜け穴(locality loophole)を塞ぐことが可能であり、十分にBell不等式の検証が可能であることを示した。 4)中性子を用いた光学実験において、2019 年に小澤によって完全な定義が与えられた量子測定誤差の完全性を観測することに、世界で初めて成功した。これは、量子を対象とする基礎科学や量子情報技術での誤差解析や精度評価への活用が期待される結果である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、次の3つの柱を研究の目的としている(研究計画調書記載の3項目): (A)弱測定の精度評価の理論的枠組の確立 (B)弱測定による素粒子を中心とした未知の物理現象の探索方法の提案 (C)弱値としての物理量の量子論的性質 このうち、(A)の弱測定とその精度評価については既に枠組みを整備し、特に一般化された不確定性関係の確立や量子測定理論との関連などについての研究を展開中である。また応用上の例として光学実験での精密測定や、高エネルギー実験での崩壊粒子の寿命や対称性の精密測定に応用する研究を行い、いずれも所期の成果を得ている。また(B)については、具体的にKEKのBelle II やCERNのATLAS検出器における実験のfeasibilityの議論を数値的に行い、いすれも現在までにpositiveな結果を得ており、今後、両者のおける具体的な実験(分析過程への参画)の実施に向けた協議を開始したいと考えている。 さらに(C)については、弱値に基づく不確定性関係と推定理論との関係性や、中性子を用いた光学実験を通して量子測定誤差の完全性を世界で初めて観測するなど、量子物理量の新しい面を明らかにしつつある。これらの状況や成果に鑑みて、総体的に本研究計画は当初の計画以上に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては: (1)弱測定の応用先として、素粒子物理だけではなく、原子核物理や原子物理にも範囲を拡大して、その可能性を広く検証すること。 (2)本研究によって得られた一般化された不確定性関係を中性子等を用いて実験的に検証し、その物理的意義を明確にすること。 (3)量子物理の(古典物理に対する)顕著な性質には、量子もつれが実現する非局所実在性に加えて、本質的な非決定性(確率性)がある。弱値・弱測定の観点から、この非決定性についても新しい視点に基づいて考察し、その原理的な性質を明らかにするとともに、乱数生成への応用可能性を吟味すること。 の3項目を計画している。
|