2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20H02104
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Research Institution | National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention |
Principal Investigator |
高橋 成実 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 総括主任研究員 (70359131)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木戸 元之 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (10400235)
今井 健太郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震津波予測研究開発センター), グループリーダー代理 (20554497)
越智 寛 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 調査役 (30359137)
石原 靖久 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, グループリーダー (30443336)
太田 雄策 東北大学, 理学研究科, 准教授 (50451513)
福田 達也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 研究プラットフォーム運用開発部門, 技術副主幹 (50608370)
近貞 直孝 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波防災研究部門, 主任研究員 (90318197)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 津波観測 / 音響通信 / データ伝送 / 音響中継 / 海水構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで特定の物理値の音響伝送について、海底から海面までのデータ伝送の検討を進めてきた。水深1000mに中継拠点を設置してオンラインで水面まで伝送する形で技術開発をしてきたが、海域環境における運用の困難さから、音響通信を中継する形でのデータ伝送を検討してきた。昨年度は、田沢湖において試験を実施、基本的な通信技術の現状の技術の確認と、海面での反射波などのノイズの特性について検証してきた。今年度はこれについて、受信した音響信号にマスクを施すなど、反射波ノイズをはじめとするノイズ対策を適用した上で、音響信号の相関から物理値に戻すプロセスを導入した。 これを受けて、今年度も昨年度と同様、田沢湖において、複数の小型ボートを用いた音響通信試験を実施した。行った試験内容は、(1)物理値伝送試験、(2)音響指向性試験、(3)音響データ陸揚げ試験である。物理値伝送試験では、送信器の深度を変えて、通信試験成功率を求めた。中継器と受波器の深度をそれぞれ80mと3mとし、それぞれ1500mの距離を確保した。その結果、200m以深では成功率95%以上、200m以浅では60-80%の成功率であることを確認した。音響指向性試験では、送波器の方位を変えながら音響通信の成功率を測定した。送波器と受波器の深度はそれぞれ3m、水平距離を1500mとして測定したところ、一定の角度で成功率が下がる指向性があることを確認し、音響特性の改良の余地があることを確認した。音響の陸揚げ試験では、湖底地形の傾斜を利用し、水深400mの湖底から桟橋までの通信成功率を求めた。中継器は80mの深度に設置したところ、中継器から受波器の間で通信成功率が20%程度であることを確認した。極端に浅い場所での通信には困難さが残ることがわかった。これを受けて音響中継器の送受信基盤を製作した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
田沢湖実験でのデータ分析を進めている。湖水環境の温度構造の検証と波動場の計算を通じ、実際の観測結果との整合性を確認している。田沢湖の湖水環境はやはり季節性があるため、田沢湖実験においては、毎回、湖水の温度構造を計測し、音響通信成功率が下がる理由を特定することが必要である。検証した結果、計算結果から直達波としては音響通信できないが、音響通信に成功している例があり、海面や湖底における反射波もデータ伝送に貢献している可能性を示唆した。但し、これらの反射波に依存する形での音響通信には信頼性について課題があり、これらの技術の運用面での検討も合わせて必要であることを認識した。 音響指向性についての検討も進めている。音響素子としての指向性、送波器、中継器、受波器としてくみ上げた後での指向性と合わせて検討している。組み立てる時に使用する部材の素材と大きさや厚さ、くみ上げ方がポイントとなる。これから、室内での実験を繰り返し、適切な組み合わせを探すことになる。 受信した音響データのばらつきも今回の測定で明確になった。実際には、海底で測定した津波高を海底から海面、そして陸上に伝送することを考えると、このばらつきが津波計測の誤差の範囲内であることが必要である。本研究での音響通信技術は、いくつかの物理値を同時に伝送できる仕様としており、これらの技術を組み合わせて最終的に測定誤差と同等程度の通信誤差内に収める形が必要である。 これらの状況を鑑み、翌年度の再実験での準備を進めている。その一環として、音響中継器の送受信基盤を製作した。翌年度は、これを用いた海域での音響通信実験を検討している。これまでの田沢湖実験の結果を踏まえた、通信実験のジオメトリを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度は海域での実験を予定しているが、音響中継器の送受信基盤の製作と、翌年度の音響中継器の製作を合わせて複数の音響中継器を用いた海域実験を実施する予定である。送信器を海底に設置して、実験後回収するには、多大なコストがかかるため、ワイヤーに送波器、中継器、受波器を取り付けて、水深4000m程度まで送波器を降ろして実験を行うことを検討している。そのまま、垂直にワイヤーを垂らした状況や、船舶が海流や風によって流されて送波器から受波器までの間に傾斜が入る状況など、複数の状況下での海域実験を翌年度実施したい。 各音響通信機器の指向性については、様々な素材、厚さ、大きさで測定を繰り返し、水平指向性、鉛直指向性とも無指向性に近づける良好な組み合わせを検討する。また、現実な利用を考慮すれば、特殊な素材ではなく、安価に入手可能な範囲での検討を進めたい。音響機器の指向性を改良した上で、送信器、中継器、受波器の設置のジオメトリの最適化を検討する。 利用する水圧計はParo scientific社の8B7000シリーズと同等の水圧計を念頭に置いているが、このセンサーは水圧値と温度値をリアルタイムで出力する。これまでの観測結果を通じて、音響通信による誤差を最小化する通信の組み合わせを検討する。津波発生が、地震によるものだけでなく、海底の地すべりによることもあり得ることを考えると、圧力値と温度値の両方の伝送が望ましい。現実的な津波観測を踏まえ、そのプレフィルターの帯域と伝送間隔を特定し、現実的な海域観測を踏まえた津波検知に必要な仕様を決定する。
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