2020 Fiscal Year Annual Research Report
トンネル磁気誘電効果を有するナノ複相構造薄膜の新機能生体センサーの展開
Project/Area Number |
20H02447
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
増本 博 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 教授 (50209459)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 伸聖 公益財団法人電磁材料研究所, その他部 局等, 研究員(移行) (70205475)
薮上 信 東北大学, 医工学研究科, 教授 (00302232)
曹 洋 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50804598)
池田 賢司 公益財団法人電磁材料研究所, その他部 局等, 研究員(移行) (40769569)
青木 英恵 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60733920)
佐々木 啓一 東北大学, 歯学研究科, 教授 (30178644)
鈴木 治 東北大学, 歯学研究科, 教授 (60374948)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナノ複相構造薄膜 / 新機能物性材料 / トンネル磁気誘電効果 / ナノグラニュラー薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究グループは、磁性体-誘電体ナノ複相構造薄膜によって、新しい機能変換材料である『トンネル磁気誘電(Tunneling Magneto-Dielectric:TMR)効果」(磁場を印加すると材料の誘電率が磁場の強さに応じて変化する現象。室温で動作する。本研究グループで命名)』を見いだした。本研究は、このTMD効果の基礎研究の段階からさらに発展させて、新しい生体センサーの応用研究という次の段階にステップアップするための基盤的研究を行うことを目的としている。 具体的な成果として、①これまで誘電体マトリックスに用いていたフッ化物、酸化物などの各種材料の他に、新たに有機化合物(四フッ化エチレン樹脂(PTFE))を用いたナノ複相薄膜を作製した。Fe-PTFE、Co-PTFEナノ複相薄膜において、初めてTMD効果の発現に成功した。これにより、軽量で柔軟性が必要な用途への展開が期待できる。②母相として酸化物および複酸化物を用いたCo-マグネシア系ナノ複相構造薄膜において、初めてTMD効果(0.08%)を見いだした。Co-マグネシア系は、マグネシアの酸素が容易にCoを酸化させるため、これまで困難であったが、試料作製装置の改良を行うことでCoの酸化を抑制させることが出来たことに由来する。これにより、磁性金属が酸化しやすい組み合わせへの展開が期待できる。③ナノ磁性金属とセラミックスマトリックスの組成比を膜の面内垂直方向で変化させた、組成傾斜機能構造を有したナノ複相薄膜により、TMD特性が発現する周波数のブロードバンド化に成功した。 上記の結果が認められ、令和2年度 日本セラミックス協会 東北北海道支部 研究発表会『優秀発表賞』、日本金属学会 2020年秋季講演大会「優秀ポスター賞」を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究グループが発見した新しい機能変換材料である『トンネル磁気誘電(TMD)効果』を有するナノ複相構造薄膜を用いて、従来にない生体センサーの開発のための基盤的応用研究を行うことを目的とし、今年度は研究実施計画に則り主に以下の3つの側面から研究を展開し成果を得た。 [A: 磁性ナノ金属-誘電体マトリックスの組み合わせの検討] 生体用磁気誘電センサーに向けて最適な材料の組み合わせを見つけるために、フッ化物、酸化物など各種材料を用いたナノ複相薄膜を作製し細胞毒性の検討を行った。生細胞数測定には、WST-8発色試薬によるCCK-8を用いた。フッ化物には潮解性を示す材料もあり、安定な酸化物に良好な組み合わせを見いだしている。 [B: ナノ複相構造薄膜の作製および差動圧力ナノ複相成膜装置の改良] ナノ磁性金属と酸化物セラミックスとのナノ複相構造薄膜の作製には、ナノ磁性金属を酸化させないことが重要なカギとなるため、考案した「差動圧力ナノ複相成膜装置」の改良を行った。Co-MgO系ノ複相構造薄膜の作製に装置の改良を適応した結果、ナノ磁性金属の酸化が抑制されたことにより、初めてTMD特性を発現させることに成功した。この結果により学会発表賞を受賞した。 [C: ナノ複相構造薄膜の基礎物性評価] 新たにマトリックスとして有機化合物(を用いたナノ複相薄膜において、初めてTMD効果の発現に成功した。組成系としてFe-四フッ化エチレン樹脂(PTFE))、Co-PTFEの両方において、約0.3%のTMD特性が発現し、低温磁気物性評価では、反強磁性を持つFeF2-Cナノ複相薄膜であることを明らかにした。この結果により学会発表賞を受賞した。その他に、組成傾斜機能構造を有したナノ複相薄膜により、TMD特性が発現する周波数のブロードバンド化にも成功している。 以上のことから、当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は前年度に引き続き、「磁性ナノ粒子-セラミックス系複相薄膜の作製」を行いながら、得られた膜の基礎物性、複機能物性を評価するとともに、デバイス化に向けて電極作製などの要素技術の展開を図る予定である。 ① ナノ複相構造薄膜の作製および差動圧力ナノ複相成膜装置の改良: TMD特性は、磁性ナノ金属粒子の界面が重要な役割を果たしていることが推測されている。そのため申請者らが以前に考案した「差動圧力ナノ複相成膜装置」をさらに改良を行って性能の向上を図る。例えば、基板材料の種類、ターゲットへの投入スパッタ電力、基板回転速度、ガス圧などの成膜条件を系統的に変化させて、ナノ複相構造薄膜の各層の厚さ、各層間の界面状態、ならびに粒子の体積率および分布状態、特に厚さ方向の分布を調査する。 ② ナノ複相構造薄膜の基礎物性評価: 1)膜の特性に影響する結晶構造、組成を、X構造解析、蛍光X線分析などにより評価する。特にTMD特性を大きく左右するセラミックス母相内におけるナノ粒子の形状や分布等の微細組織を高分解能電子顕微鏡等により詳細に評価する。2)ナノ複相構造薄膜の誘電率周波数依存性、膜の磁気物性を評価する。3)得られた試料の生体内安全性を評価するため、細胞実験による細胞毒性評価検討項目を明らかにする。 ③ すだれ状電極作製と高周波TMD効果の評価: ナノ複相構造薄膜の高周波GHz帯におけるTMD効果を試験するために、ノイズ等の外的要因の影響を低減できる『すだれ状電極』の設計・製作・測定を行い、高周波・広帯域TMD効果に及ぼす『すだれ状電極』の最適膜構造を明らかにする。この膜の評価は、電磁研に有る磁場を印加しながら誘電率の周波数依存性の測定が可能な「磁気-誘電評価装置」を用いて行う。 得られた結果を取りまとめて、学会発表、論文発表などを行う。
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